研究課題
1. GD3及びGD2、GM1などのスフィンゴ糖脂質と相互作用するリガンド分子を、種々の細胞株を用いたEMARS法により同定した。(1)マウスの初代培養アストロサイトのGD3を標的にしたEMARS反応を用いて近傍分子の同定を行ない、PDGF-Bの受容体であるPDGFReceptor-α (PDGFRα) が同定された。この分子は、導入したPDGF-Bのシグナル受容に働いていると考えられ、GD3発現の具体的な実行分子と思われた。(2)ヒトグリオーマ細胞株で同様にGD3を標的にしたEMARS反応を行ない、CD44、インテグリンα3、EphA、PC1などの分子が、複数の細胞株に共通して同定された。現在、これらの分子の細胞内局在、GD3との結合、細胞形質における役割などについて検討中である。2. EMARS反応で同定された、ガングリオシドとの相互作用が想定される分子群の機能解析。(1)EMARS法で同定された分子の中で、Neogeninの、GD3との相互作用に基づく機能解析を行なった結果、Neogeninの細胞増殖、浸潤などの癌形質の増強作用を認めたが、さらに細胞内ドメイン(ICD)の単独発現細胞を樹立して、同様に細胞の悪性形質増強作用を観察した。3. 同定された各糖鎖近傍分子群の、細胞内局在、糖脂質との結合性、発現パターンの検討、シグナル制御に関わる分子群とのネットワークを検討した。(1)Neogenin のICDの標的遺伝子のChIP解析のための実験系を樹立して、現在、新規遺伝子を同定中である。(2)アストロサイトラインで同定されたPDGFRαのGD3との相互作用を明らかにするために、細胞免疫染色、PDGF刺激時の細胞内シグナルの解析を行ない、PDGFRαとGD3、Yes等との共沈降が示唆された。また、paxillinのリン酸化がPDGFRαを介して増強されることが示された。
2: おおむね順調に進展している
スフィンゴ糖脂質を標的にしたEMARS反応と質量分析によって、メラノーマに加えてグリオーマ細胞(ヒト及びマウス)を用いても同様に糖鎖近傍タンパク質の同定が進み、各々の分子の発現パターン、糖脂質との相互作用、本来の細胞機能の解明が順調に進展してきた。
1. GD3に引き続き、GD2、GM1などの酸性糖脂質と相互作用するリガンドタンパク質群を、様々な細胞株を用いたEMARS法により同定し、機能解析を進める。(1)マウス初代培養アストロサイトのGD3関連分子として同定した、PDGFReceptor-α (PDGFRα)につき、GD3との相互作用、共沈降の有無、PDGF刺激時の下流シグナル等につき、さらに詳細な検討を行う。そのために、生化学的なシグナルと、培養細胞及びマウス脳腫瘍組織切片を用いた免疫染色的解析を行なう。さらにヒトの脳腫瘍組織における解析を行なう。(2)ヒトグリオーマ細胞株GD3を標的にしたEMARS反応により同定した、CD44、インテグリンα3、EphA、PC1などにつき、脂質ラフトへの局在、GD3との結合、細胞増殖、浸潤、接着などにおける役割を検討する。(3) グリオーマ細胞株を用いてガングリオシドGD2を標的にしたEMARS反応を成功させる。・ GD3結合分子Neogeninの細胞内ドメイン(NeICD)の転写因子としての標的遺伝子を同定する。そのために、NeICD抗体によるChIP解析を行ない、新規遺伝子を同定する。2. リガンドタンパク質と糖脂質糖鎖との反応により生成されるシグナル解析を進める。(1)アストロサイトラインで同定されたPDGFRαのGD3との相互作用につき、PDGFRαとGD3、Yes等との共沈降実験、paxillinなどの下流シグナル分子同定と細胞形質の変化における役割を検討する。(2) ChIP解析により同定されるNeICDの新規標的遺伝子につき、それらの産物の腫瘍形質における役割を検討する。(3)糖脂質糖鎖の違いによる形成ミクロドメインの構成、性状、機能の異同につき、生化学的解析を中心に明らかにする。3. 明瞭な糖脂質とリガンド分子との結合が認められた場合、既報の結晶構造との結合モデル作製や結晶構造解析を試みる。
様々な細胞種といくつかのモノクローナル抗体を用いたEMARS-MS (質量分析)により、糖脂質関連分子の同定を進めているが、IgG抗体でHRP標識が高率に達成できるものが限られていることが、試行錯誤の末に分かってきた。新種の抗体の入手に時間がかかり、この点の計画が遅れたのが一つの要因である。また、マウスin vivo腫瘍の作成条件の確立などの基本条件の確立に少し時間がかかり、研究の大規模な展開が次年度の持ち越されのももう一つの要因である。課題として持ち越した、GD2、GM1などのガングリオシドを標的としたEMARS-MS解析の実行、マウスin vivo 腫瘍、とくに腫瘍発生初期の遺伝子異常やepigeneticな変化の解析を進める。基本条件が整備されれば、広範な遺伝子機能の解析や、多数の組織標本を用いた解析が可能となり、それに未使用額を使用する。
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Cancer Science
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