研究課題
基盤研究(B)
本研究では、遷延化した炎症(腎線維症など)での上皮間葉転換(EMT:epithelial mesenchymal transition)に伴うWnt5a-Rorシグナルの活性化に焦点を当て、線維症などの進行性病態におけるこのシグナルの役割を分子・細胞・組織/器官レベルでのシームレスな解析により明らかにすることを目的としている。本年度の研究では、片側尿管閉塞(UUO:unilateral ureteral obstruction)実験による腎線維症モデル、ブレオマイシン誘発性肺線維症モデル等の作製及びこれら疾患モデルでのWnt5a-Rorシグナルの活性化動態・機能解析を行った。その結果、UUO処理による腎線維症モデルにおいて、TGF-βの産生に伴うTGF-βシグナルの活性化に伴う尿細管上皮細胞のEMT誘導に伴い、損傷を受けた尿細管上皮細胞においてWnt5a、Ror2の発現が誘導され、Wnt5a-Ror2シグナルが活性化されることが見出された。また、尿細管上皮細胞において活性化されたWnt5a-Ror2シグナルによりMMP(matrix metalloproteinase)-2の発現・産生が亢進し、その結果尿細管基底膜が破壊されることが明らかになり、腎線維症におけるWnt5a-Ror2シグナルの重要性が示された。また、腎線維化において間質にαSMA陽性・Ror2陽性の活性化筋線維芽細胞が検出されることから、EMTを起こした尿細管上皮細胞も腎線維化に寄与することが示唆される。また、ブレオマイシン誘発性肺線維症モデルにおいても、Ror2の発現誘導が検出された。さらに、次年度に向けてWnt5aのおとり受容体の産生・精製を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究により、腎線維症の病態におけるWnt5a-Ror2シグナルの活性化動態や機能が明らかとなり、その成果の論文発表に繋がったため、一定の成果を挙げることができたと考えている。また、次年度に向けたブレオマイシン誘発性肺線維症モデルでの予備実験やおとり受容体の作製も順調である。各種コンディショナルKOマウス作製の準備状況も概ね良好であるが、それらを用いた実験の開始には至っていない。
上記のように、今後細胞種・組織特異的KOマウスを用いた病態モデル解析やメタボローム解析も予定通り行う計画である。本年度ではLPS誘発性神経炎症モデルの作製・解析に至らなかったが、今後実験条件を検討した上で、解析を進めていく計画である。
本年度では培養細胞を用いた解析やメタボローム解析の実施には至らなかったため当該助成金が生じたが、翌年度の研究費と合わせて、これらの解析や細胞種・組織特異的KOマウスを用いた病態モデル解析も精力的に行う予定である。
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http://www.med.kobe-u.ac.jp/medzoo/