研究概要 |
1例の染色体欠失の断端と結合部の詳細な解析により、複製ストール依存性染色体構造異常に発生メカニズムに迫った。反復流産を呈する健康な夫婦に対する、反復流産の原因のスクリーニング精査でG分染法をおこない、女性側の片方の染色体にdel(2)(q13q14.2)の部分欠失を認めた。欠失領域の同定のために、マイクロアレイ染色体検査を行った結果、arr[hg19] 2q14.3(124,622,589-127,367,440)x1の2.8Mbの欠失であった。このCopy number variationは、健常人のデータベースに登録がなかったが、欠失領域には脳特異的遺伝子CNTNAP5が存在するのみであり、反復流産の原因とは考えにくく、良性のものと推定された。この染色体欠失の発生メカニズムを調べるために、切断点の外側にプライマーを設計し、long range PCRにてジャンクション断片を単離した。ジャンクションには、欠失の上流側の切断点にある11-13塩基の配列が4回繰り返した後、6塩基のマイクロホモロジーを介して、下流側の配列と結合していた。4回の繰り返しも1塩基のマイクロホモロジーを介しており、Chenらの提唱した「backward replication slippage」、もしくは、「serial replication slippage」と呼ばれるものに相当する特徴に一致した。両側の切断点には、非B型DNAのポテンシャルのあるような特徴的な配列は存在しなかった。以上より、なんらかの、配列非依存性のDNA障損傷の存在により複製フォークがストールし、その解消のために4回にわたる「backward replication slippage」を繰り返した後、核内で近傍にあった複製途中の別の複製フォークを用いてストールを解消したことが、この染色体欠失の原因であることが想定された(Ohye et al. 2014)。
|