慢性萎縮性胃炎は胃分化型癌発症の危険因子として知られているが、その機序については明らかにされていない。平成26年度は、慢性萎縮性胃炎におけるαGlcNAcの発現と胃癌発生との関連について解析した。ヒト胃生検組織(健常胃粘膜 67症例、慢性萎縮性胃炎 70検体)と内視鏡的に切除された胃粘膜内癌(分化型癌 68症例、未分化型癌11症例)を対象に、αGlcNAcとそのコア蛋白質であるMUC6に対する免疫染色を行った。健常胃粘膜の幽門腺ではαGlcNAcとMUC6の発現が一致していたのに対し、慢性萎縮性胃炎の幽門腺では健常胃粘膜と比較してMUC6陽性腺管の数は有意に減少しており、さらにMUC6陽性幽門腺に対するαGlcNAc陽性幽門腺の数も有意に減少していた。一方、分化型粘膜内癌において、癌細胞の下方に残存する非腫瘍性幽門腺におけるαGlcNAc陽性腺管の数はMUC6陽性腺管と比較して有意に減少していた。しかし、未分化型粘膜内癌において、癌細胞の下方に残存する非腫瘍性幽門腺ではαGlcNAcとMUC6で陽性腺管の数に有意な違いは認められなかった。さらにαGlcNAc が減少した慢性萎縮性胃炎におけるMIB-1標識率は、健常胃粘膜と比べて有意に高かった。以上より、慢性萎縮性胃炎におけるαGlcNAcの発現低下は、粘膜上皮の細胞増殖能を促進することで胃分化型癌発生の危険因子となり得る可能性が示された。さらに同様の解析を18症例の胃幽門腺型腺腫について行った。低異型度型胃幽門腺型腺腫では15症例中、12症例でαGlcNAcとMUC6の発現部位は一致していたが、高異型度型胃幽門腺型腺腫では3症例全てにおいてMUC6に比べてαGlcNAcの発現低下がみられた。さらに、αGlcNAcの発現が減少した症例は減少しない症例と比較して有意にMIB-1標識率が高く、αGlcNAcは幽門腺型腺腫の悪性度とも関わっている可能性が示された。
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