研究課題
本年度では、テネイシン-C(TNC)とTGF-β添加後の細胞におけるリン酸化状態を、逆相タンパク質アレイ (RPPA)を用いて網羅的に検討を行った。Western blot法により、SRCとFAKのTyrリン酸化は処理により増強することを再確認したサンプルを用いたが、RPPA法ではリン酸化の増強が確認できなかった。Ser/Thrのリン酸化については、TGF-β添加でのリン酸化シグネチャとTNCやTNC+TGF-βのシグネチャは明らかに異なっており、後者ではPDK1、P70S6K、RSK2、cRAF、ELF4Gなどでリン酸化の増強がみられ、ERK1/2やRSK1は低下傾向にあった。その他にTyrリン酸化で、cMetのリン酸化の軽度亢進をみとめたのみであった。Tyrリン酸化は、Ser/Thrリン酸化に比較し、量的に少なくRPPA法では検出が困難であることが示唆された。これらについて、Western blotで結果を検証したところ、cRAFとElf4Gのリン酸化の亢進は確認できた。また、ERAK1/2では逆の結果でリン酸化の亢進がみられた。これらのリン酸化タンパク質については、組織標本での検出を試みているところで、ERK1/2については培養細胞と癌細胞と間質細胞での発現が染色で観察できた。また、別の検討で、マクロファージについては、TNC処理により、NFkBのリン酸化と核移行が観察されることから、癌間質のマクロファージ(TAM)へポジティブな作用が考えられる。乳癌幹細胞については、フローサイトメトリで幹細胞リッチな分画を培養細胞の種類によっては十分量確保できることがわかったので、RPPA法とWestern blotでの解析を今後行う予定である。
3: やや遅れている
本年度から、TNC添加による擬似的な癌進展が進んだ細胞の網羅的リン酸化解析のため、RPPA法を行うことにした。このためにはかなり多量のTNCを必要とする。その精製を行っていたが、産生細胞が不調となり産生が少なく量がとれなくなった。そのため、産生細胞を新たに購入し、再度産生系を立て直す必要が生じた。また、精製機械が老朽化しており、故障が頻回に生じたため、装置の一部の入れ替えを行い、精製系も再構築を行った。この研究の根幹部分の不具合のため、実験の進行が遅れた。現在はいずれも回復し、来年度の実験に必要量のTNCは確保できている。
1)ヒト乳癌組織内のTyrリン酸化のプロテオミクス解析、2)微小環境を再構成した培養細胞を用いたSer/Thrリン酸化と細胞機能との関連、3)ヒト乳癌組織内でのTyrおよびSer/Thrリン酸化シグナルの免疫組織化学による解析、4)癌幹細胞におけるリン酸化シグネチャの解析について以下の方法・方向性をもって研究を行う。1)については採取されている試料をひとまず用いて、FAK/SrcなどのTyrリン酸化に絞って解析を行い、その結果を目標に網羅的な解析を試みる。さらに、前年度に行ったReverse Phase Protein Array (逆相タンパク質アレイ、RPPA) で差異がでたTyrリン酸化タンパク質についてもWestern blot法を用いて検討する。2)については、培養細胞試料を用いて行ったRPPA法の結果でみられたTGF-betaやTNC処理後での変化をそれぞれのタンパク質について通常のWesternBlotでの解析をおこなう。また、間質を構成する細胞、特にマクロファージ、線維芽細胞についても検討を行う。これらのリン酸化タンパクの局在についても蛍光抗体法で観察を行う。3)では、脱リン酸化を阻害した試料を用い、いくつかのリン酸化部位の検出に安定的に成功しているので、FAKとSRCのリン酸化について再び行っていく。ただし、これらのリン酸化の検出はリン酸化量が少ないと考えられ、RPPA法によって判明した下流と考えられる量的に多いSer/Thrリン酸化タンパクの免疫染色も試みる。4)については、TNCが幹細胞プールを増加させ得るかを引き続き検討する。また、十分な細胞が確保する目途がついたので、RPPA法を用いて通常細胞と幹細胞の比較により、幹細胞に特異的なリン酸化シグネチャを明らかとする。
前述したように、TNCの精製系の不具合により、研究に遅れが生じたため、次年度での解析に必要な経費を繰り越すことになった。本研究において、現在の網羅的解析の主力となっているRPPA法による解析に用いる予定である。
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