研究概要 |
本年度は,1.マウステラトーマF9細胞を用いたクローディン-6(Cldn6)接着シグナルと上皮分化について,2.正常ヒト子宮内膜上皮細胞及び子宮内膜癌細胞のタイト結合に対する性ホルモンの影響3.膵癌細胞のEMTに対するPKCα阻害剤の効果,を検討した. 1.F9細胞にCldn6を発現させると、細胞接着装置および微絨毛の形成を伴う上皮細胞分化を認めた。第二細胞外ドメインを欠くCldn6を導入したF9細胞では、上皮分化が見られなかった。さらにCldn6のC末端に存在するY196およびY200の2つのチロシン残基、ならびにそれらのリン酸化が上皮分化誘導に必須であることが明らかになった。免疫沈降法および各種阻害剤による解析から、活性型Srcファミリー・キナーゼがCldn6と共役して上皮分化を誘導していた。 2.ヒト正常子宮内膜上皮細胞ではcldn-1,-3,-4,-7,occludinの発現が確認され、プロゲステロンに反応してcldn-3,-4の増加を認めた。この変化は、月経周期における変化と同様であった。内膜癌細胞株(Sawano)は、エストロゲンに反応しcldn-3,-4の増加が認められた。これらの変化には,甑PK経路が関与しており、内膜癌細胞ではさらにhedgehog経路も関与していた。Cldn-4は,Welch菌毒素(CPE)のレセプターであるが,正常ヒト子宮内膜上皮細胞にはまったく殺細胞性を示さず,子宮内膜癌細胞にのみ殺細胞性が認められた。 3.TGF-βおよび低酸素で誘導したEMTに対するPKCα阻害剤の効果を,cldn-1の変化を指標に解析した.PKCαは膵癌で高発現しており,PKCα阻害剤はEMT誘導転写因子を抑制し,EMTによるcldn-1などのタイト結合分子の発現や,タイト結合機能の変化を抑制する効果があることが判明した.一方,正常細胞ではPKCα阻害剤はタイト結合分子の発現を誘導したことから,細胞の分化を誘導する可能性が示唆された.PKCαはタイト結合分子の発現調節に強く関与し,膵癌細胞と正常膵管上皮細胞は異なるメカニズムで制御されていることが考えられた.
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