研究課題
1.Mx1-Creを用いた肝細胞追跡系において,小葉中心性慢性肝傷害(四塩化炭素,thioacetamide)で,傷害部での肝細胞の細胆管化生と既存細胆管の増生と傷害部への移動により小葉の逆転現象が起こることを昨年見出したが,総胆管からの墨汁注入実験により小葉中心部の細胆管反応と既存胆管系の交通が証明された.また,細胆管化生による新生胆管にはほとんど増殖性がみられないことが明らかになった.2. JNK-c-Jun経路の役割を検討するために,Mx1-Cre(+/-)MKK7(fl/fl)マウスを作製し,Poly(I:C)投与後に肝細胞を分離し,コラーゲンゲル内培養を行った.対照肝細胞に較べ,樹枝状形態形成が弱い傾向が認められ,胆管の形態形成にJNK-c-Jun経路が関与していることが示唆された.また,コラーゲンゲル内培養系でTGF-βが樹枝状突起の伸長を強く促進することが判明した.3.Alb-DsRedラットから胆管上皮細胞を分離し,マトリゲル上で培養する実験系で,一部の細胞がアルブミンを発現するようになるが,HNF-4αの発現はごくわずかしか回復しなかった.胆管上皮にはHNF-4αの発現を抑制するCOUP-TFが高度に発現していることが明らかになった.これが胆管上皮から肝細胞への分化転換を困難にしている可能性が考えられる.4.アデノ随伴ウイルス(AAV)8にCreを組み込み,ROSA26Rマウスに投与したところ,きわめて効率よく肝細胞をラベルできることがわかった.5.(その他)ファブリー病モデルマウスに関しては新潟大学 丸山先生との共同研究で,特に傷害の強い腎組織の検討を行い,病変の局在がヘンレ上行脚から遠位尿細管にあることを同定した.また,マウス肝の慢性四塩化炭素傷害の抑制にオルトバナジン酸が有効であることが確認された.
2: おおむね順調に進展している
1.Mx1Creを用いた肝細胞系譜の追跡系で,肝細胞の細胆管への分化転換,既存の胆管上皮のリモデリングが明らかになり,現在論文を投稿している.また,AAV8を用いた肝細胞特異的遺伝子発現系が実際に使えるようになり,in vivo肝細胞追跡に応用できる段階にある.この系はMx1-Creよりもさらに効率的に肝細胞をラベルできるため,肝細胞の細胆管化生の可逆性の検討にも有用であると考えられる.2.コラーゲンゲル内培養やマトリゲル上培養を用いた肝細胞,胆管上皮細胞の分化状態の変化の検討も順調に進んでいる.特に,TNF-αやTGF-βの肝細胞の分化転換に与える影響が異なることが明らかになり,今後の研究のヒントが得られた.3.肝線維化を抑制するための一つの手段としてオルトバナジン酸の投与が有効であることがマウスでも確認された.4.レーザーマイクロダイセクション,AAVを用いた受容体細胞外ドメイン-Fc癒合タンパク質のin vivo発現系については,予定より進行が遅れているが,準備が整いつつある状況である.
1.AAV8による肝細胞追跡系を用いた肝細胞の胆管上皮細胞への分化転換およびその可逆性の検討を進める.また,受容体細胞外ドメイン-Fc癒合タンパク質のin vivo発現系のためのAAV8ベクターを作製する.2.マウス肝細胞や胆管上皮細胞の培養系で,MKK7ノックアウト,TNF-αやTGF-βなどのサイトカイン,COUP-TFノックダウンの影響などを検討する.3.傷害肝における炎症性サイトカインの産生細胞を同定する.4.オルトバナジン酸の肝線維化の抑制効果の用量依存性を検証し,単離星細胞での効果およびSrc活性化との関連を調べる.
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