研究課題
基盤研究(B)
本研究は、血液脳関門の血管内皮細胞がどのように血液細胞を中枢神経内に侵入させているかを解析して、その破綻、過剰な活性化がどのように病態と関与するかを調べるものである。解析の基盤となる分子機構は私たちが発見した『炎症アンプ』である。これはケモカインの過剰産生機構であり、血管内皮細胞や線維芽細胞でのIL-17とIL-6刺激後に生じるNFkBとSTAT3の同時活性化にて形成されるIL-6信号のポジティブフィードバック機構であった。その後、解析を続けていくと実際の機能分子は、ケモカインであることがわかった。ケモカインが局所にて過剰に産生されれば、その部位へ大量の免疫細胞が浸潤し、恒常性が破綻して炎症が生じる。2012年には、局所的な交感神経の活性化が第5腰髄背側血管の血管内皮細胞に存在する炎症アンプ活性を介して誘導して中枢神経系への血液細胞のゲートを形成していることを証明した。このような背景に、本研究を進め、現在、様々なストレス刺激による神経の活性化が炎症アンプを活性化して血液脳関門に血液細胞の侵入口を形成することがわかってきた。また、その過程で『ゲート理論』を提案した。この理論は、ヒラメ筋の刺激が第5腰髄の背側血管にケモカインの発現を誘導して、その上部の大腿四頭筋の刺激が第3腰髄の背側血管に、さらに上部の上腕三頭筋の刺激が第5頚髄の背側血管のケモカインの発現を誘導したことから、神経活性化が生じた近傍の血管の状態が変化して血液脳関門に血液細胞の侵入口を形成することがわかった。これらの結果から、中枢神経系の血管ばかりではなく一般臓器でも神経の活性化が血管の状態変化を介して血液細胞の侵入口をそれらの臓器に形成して臓器の恒常性や病態形成が制御されていると言う理論である(Arima et al.,Mediators of Inflammation in press)。
2: おおむね順調に進展している
多発性硬化症の患者の70%以上のものが再発と寛解を繰りかえすが、その分子機構は不明である。その原因の1つは人為的に再発を誘導できるモデルが存在しないことである。今年度、神経刺激を利用して人為的に再発を誘導できるモデルを確立できた。私たちの用いている病原T細胞の静脈移入では一過性病態を呈しても再発は生じない。症状が回復したマウスに様々な刺激(ストレス負荷、感染など)を誘導して病態再発を解析した。その結果、ある刺激にて炎症アンプ依存性のBBB破壊と病原T細胞浸潤がすべての脊髄腹側の特定の血管に認められた。これらは時間とともに消退するが、免疫細胞が残存しているLSからは炎症が拡大した。LSでは脊髄に接している血管ではBBB破壊と病原T細胞浸潤の両者が認められたが、その外側血管ではBBB破壌のみが認められた。
L5ゲートは末梢とCNSとの接点であり、末梢組織が病原体に感染した際、ここからCNS感染を生じ髄膜炎や脳炎に進行する可能性がある。L5ゲートでは定常時から炎症アンプが活性化しており標的分子としていくつかの微生物の受容体も発現上昇する。細菌は髄膜炎を起こすStreptococcus pneumoniae、Neisseria meningitides、ウイルスは神経向性をもつHSVなどを使用する。これらを正常マウスや免疫不全マウスへ経静脈感染させ、LSゲートからの侵入を免疫染色やPCR法にて検出する。また、いくつかのストレス刺激を施したマウスでも同様の実験を行って侵入口が移動するかも解析する。さらに、マウスアルツハイマー病モデル、パーキンソン病モデルを用いて検証する。予備実験では脳病変部へのT細胞を含む免疫細胞の浸潤が認められ、BBB破壊が示唆された。血管の状態、特に炎症アンプの活性化状態を詳細に解析する。後述するヒトサンプルを用いた実験も行う。
繰越金は少額(5000円ほど)だが消耗品費に充填する予定である.
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (18件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (22件) 図書 (1件)
Cell Reports.
巻: 3 ページ: 946-959
10.1016/j.celrep.2013.01.028
Biochem. J.
巻: 450 ページ: 295-301
10.1042/BJ20121188.
Int lmmunol.
巻: (in press)
J Immunol.
巻: 190 ページ: 774-783
10.4049/jimmunol.1103067.
臨床免疫・アレルギー科
巻: 59 ページ: 265-273
医学のあゆみ
炎症と免疫
巻: 21 ページ: 108-116
巻: 59 ページ: 232-239
医薬ジャーナル
巻: 49 ページ: 109-116
巻: 189 ページ: 1928-1936
10.4049/jimmunol.1103613
Proc. Natl. Acad. Sci. USA.
巻: 109 ページ: 5010-5015
10.1073/pnas.1114931109.
Front. Immunol.
巻: 3 ページ: 323
10.3389/fimmu.2012.00323
Int. J. Biol. Sci.
巻: 8 ページ: 1267-1280
10.7150/ijbs.4828.
感染・炎症・免疫
免疫学コア講義
巻: 11 ページ: 113-120
日本臨床増刊号 分指標的薬
巻: 11 ページ: 192-206
巻: 42 ページ: 210-220
領域融合レビュー
巻: 10 ページ: 1,e006