研究課題
我々は昨年度までに肝細胞でcFLIPと呼ばれる細胞死抑制因子の発現が低下したマウス(cFlipHeplowマウス)を樹立し、このマウスに少量のTNFaを投与すると、一過性の肝障害が誘導されることを見出した。そこで本年度はcFlipHeplowマウスにTNFaを投与し、細胞死に陥った肝細胞の除去にどのような食細胞が関与するかを検討した。アポトーシスに陥った肝細胞の周囲には、クッパー細胞よりも血中から流入してくるCD11b陽性細胞が強く集積しており、クッパー細胞をクロドロネートで除去しても、肝炎の増悪や死細胞の貪食処理には遅延が認められないことを見出した。また薬剤依存性に特定の食細胞を一過性に欠失させることの可能な遺伝子改変マウス(ヒトジフテリアトキシンレセプター[hDTR]遺伝子をある特定の食細胞で発現できるようにしたノックインマウス)由来の骨髄を移入したcFlipHeplowマウスにDTを投与し、CD11b陽性の単球を除去した後にTNFα投与したところ、肝障害のマーカーであるALT値や炎症性性サイトカインであるインターロイキン6が血清で著明に上昇した。野生型マウス由来の骨髄を移入したマウスではこのような増悪は認められなかった。このことから、骨髄から肝臓局所に流入してくるCD11b陽性の単球が、細胞死に伴う炎症の収束に積極的に関与している可能性が示唆された。逆にこれらの細胞が存在しない状況では、肝臓内に存在する他の細胞が、死細胞から放出されたDanger-associated molecular pattern (DAMP)sに反応して炎症生サイトカインを産生し、炎症の増悪や細胞死の亢進に関与していることが推測された。また肝炎の劇症化したマウスの血清を用いてプロテオーム解析を行ったところ、これまでDAMPsの一つとして報告されている因子が著明に増加していることを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度に予定した研究計画の大部分は既に遂行しており、死細胞由来シグナル増幅マウスも既に樹立し、死細胞から放出され劇症肝炎に関与すると考えられる因子の候補を一つ同定しており、当初の計画以上に進展していると考えられる。具体的には以下の項目である。1) 一過性に肝障害を再現性よく誘導できるモデルマウスの系を構築2) 肝細胞死後の死細胞除去や炎症の収束には、クッパー細胞ではなく、血液から侵入してくるCD11b陽性の単球が関与していることを見出した。3) このモデルと一過性に細胞死に伴い末梢血から流入してくる単球系の細胞を欠失させることのできるマウスとを交配し、死細胞から放出される因子の同定に我々は成功した。
まず今回の研究で同定した因子がなぜ骨髄由来の単球が消失すると末梢血中で増加するかを明らかにする。臨床的には重篤な感染症時に末梢血液中の白血球や単球が低下し、炎症性サイトカインの産生が亢進しやすくなる事が報告されていることから、我々の見ている現象はそのメカニズムの解明につながる可能性がある。また、我々は一昨年度の研究においてcFLIPは腸管や肝臓において細胞死を抑制することで組織の恒常性維持に必須の役割を果たしていることを報告した(Piao et al, Science Signaling 2012)。しかし、細胞死が生じる組織によってもその後に誘導される生体応答が異なる可能性が十分あることから、皮膚特異的なcFLIP欠損マウスを樹立し、皮膚の角化(細胞死の関与が強く疑われる)における細胞死の役割を検討していきたいと考えている。
遺伝子組み換えマウスで実験に使えるマウスが予想以上に少なかっために、予定していた実験を次年度に持ち越す必要が生じたため。遺伝子組み換えマウスは十分な数を確保できたことから、予定していた実験を行う予定である。
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