研究課題
本研究は、寄生原虫Trypanosoma cruziの感染によって引き起こされるシャーガス病を、人類との歴史の浅い、未だに未適応の段階にある新興感染症として位置づけ、自然宿主モデルを用いてシャーガス病の病態・症状の多様性および人獣共通感染症としての特徴を理解することを目的とする。本年度はルシフェラーゼ遺伝子(luc2)を恒常的に発現するT. cruziの作製を進め、遺伝的に異なる6系統の原虫のうち5系統でluc2発現T. cruziおよびコントロールとして緑色蛍光タンパク(EGFP)発現原虫クローン株を樹立することができた。in vitroの発光検出システムでは原虫数が10~1,000,000の範囲でルシフェラーゼの発光量と定量性を示すことを確認した。また、感染臓器における原虫の定量的検出のためにはリアルタイムPCRを用いた定量的DNA解析が必要となる。そこで、luc2発現T. cruziよりゲノムDNAを抽出し、これを鋳型にした定量PCRを実施した。これまで定量PCRに用いられているプライマーセットは検出感度を向上させるために多コピー/ゲノムとして存在するものが多く用いられているが、この場合原虫株間でコピー数が異なるために感染強度を株間で直接比較することができない。そこで1コピー/ゲノムのDNA配列を標的とした標的としたプライマーセット(P2α)を用いてリアルタイムPCRを行ない、定量性を確認した。また、より高感度の検出が必要な場合を想定し、ゲノム当たり>10,000コピー存在するマイクロサテライト配列を標的とした定量PCRを実施し、各株におけるコピー数を明らかにした。一方、作製した組換え原虫は昆虫型で哺乳類細胞への感染性はないため、メタサイクリック型に転換させた後哺乳類細胞感染系の樹立を進めているが、一部の系統では感染はするものの細胞内増殖型から血流型への転換が起こりにくいことが明らかとなり、現在感染系の改良を行なっている。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度に予定していた組換え原虫の組換え原虫の作製については研究が格段に進み、すでに感染実験を開始するための準備はすべてととのっている。したがって、総合するとおおむね順調に進展していると言える。一方、平成25年度に予定していたコウモリ採集については採集数が少なく、さらに調査を継続する必要があるが、現在ベネズエラでは政情不安が広がっており本年度も渡航できるかどうかは微妙な状態である。この点については共同研究者と密な連絡を取ることでカバーできると考えている。
これまでに得られた成果を踏まえ、自然宿主コウモリにおける感染強度や臓器特異性をさらに詳細に解析するとともに、複数系統の遺伝子組換え原虫と、異なるマウス系統を組み合わせて大規模な感染実験を行なう。特に自然宿主を用いた研究では海外連携研究者との連絡を密にとりつつ研究を進める。
研究費の節約に最大限努めた結果、学術研究助成基金助成金分について支出を抑えることができた。次年度は、マウスを実験宿主としたルシフェラーゼ発現クルーズトリパノソーマの臓器特異性の解析ならびにシャーガス病の自然宿主コウモリにおけるクルーズトリパノソーマの臓器特異性の解析を実施する。ここではルシフェラーゼの基質ルシフェリンやリアルタイムPCR関連試薬を大量に購入する必要があるので、これに充当する。
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