研究課題/領域番号 |
24390102
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
奈良 武司 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40276473)
|
研究分担者 |
坪内 暁子 順天堂大学, 医学部, 助教 (10398662)
モラレス ホルヘ 順天堂大学, 医学部, 助教 (20596126)
橋本 宗明 順天堂大学, 医学部, 准教授 (30407308)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | シャーガス病 / Trypanosoma cruzi / 慢性化 / 休眠体 / 生適応進化 |
研究実績の概要 |
本研究は、寄生原虫Trypanosoma cruziの感染によって引き起こされるシャーガス病を、人類との歴史の浅い、未だに未適応の段階にある新興感染症として位置づけ、自然宿主モデルを用いてシャーガス病の病態・症状の多様性および人獣共通感染症としての特徴を理解することを目的とする。シャーガス病の多様な病態のなかでも慢性化は最も重要な臨床的特徴であり、数年~数十年にわたる無症状期間を経て、感染者のおよそ30~40%で心筋症、巨大結腸・巨大食道を発症し、突然死やQOLの重大な低下を引き起こす。しかし、原虫がなぜ持続感染し続けるのかに関しては全く不明である。そこで本年度は、T. cruziの生活環に新たに「休眠体(嚢子)」の存在を仮定し、研究を実施した。これまでにT. cruziにおいて尿素分解酵素ウレアーゼの存在下でepimastigote(昆虫型原虫)から嚢子が誘導されたとの古い報告があり(Nature 204, 1964)、最初にその再現性を確認した。蛍光タンパクDsRedを恒常的に発現するT. cruziを作製し、嚢子形成過程をリアルタイムで観察した。ウレアーゼ処理後1日後には原虫は球状に膨大し、内部に空胞様の構造を認めるようになった。原虫の核、キネトプラストキネトプラスト、鞭毛は外殻の内壁に沿ってそれぞれ分裂し、数日後にはそれらが集合して個々の娘細胞が空胞内に遊離する様子が観察された。嚢子は室温で2週間以上安定であり、内部の娘細胞の運動性も維持されていた。原虫はウレアーゼのほかにコンカナバリンA存在下でも嚢子を形成することが明らかとなり、嚢子化がグルコースまたはマンノース付加タンパクを介したシグナル伝達によって誘導されることが示唆された。コンカナバリンAを除去すると娘細胞は嚢胞から脱出し分裂を開始することから、嚢子形成は糖鎖依存性のシグナルに依存することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に予定していた、自然宿主コウモリと実験宿主マウスにおける感染動態の比較については、平成25年度以降今日までベネズエラの政情不安が続き渡航できない状況にあるが、予備実験ではコウモリのほぼ全臓器から原虫が検出され、また妊娠コウモリの胎児からも原虫が検出されている。これは、コウモリ体内ではT. cruziの臓器特異性が低い一方で増殖がコントロールされる、すなわち休眠体(嚢子)として存在する可能性を強く示唆している。そこで、現在ここに焦点を絞って休眠体の誘導条件と性状解析に取り組み、前述の成果を上げている。
|
今後の研究の推進方策 |
助成金分については、研究計画全体を見通した上で経費を配分することが可能となったため、年度単位の経費使用を遵守しつつも無駄を極力排除した結果、当該助成金が生じた。次年度以降については当該助成金を計上し、研究費の無駄な支出を排除しつつ柔軟に運用する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
シャーガス病の多様な病態のうち慢性化は最も重要な臨床像であり、慢性期移行に関わる因子は全く不明であったが、本研究によってT. cruziが嚢子様構造(休眠体)を形成することを再発見した。現在、原虫の嚢子化に伴うシグナル伝達、タンパク発現、および代謝基盤を解析しているため、これらの費用を年度を超えて継続的に支払う必要が生じたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
プロテオーム・メタボローム解析、抗体作製、および免疫蛍光染色にかかる消耗品費と委託費、ならびに研究補助員の雇用を予定している。
|