研究課題
結核は、2013年に150万人が死亡したように現在も最大級の細菌感染症である。結核菌のすみかはヒトであり、感染者(潜在性結核)の5-10%で、潜伏菌の再増殖が生じ結核が発症する。したがい活動性結核に加え、潜在性結核に対処することが結核の制圧につながると申請者は考え、潜在性結核のメカニズムを解析している。潜在期において結核菌は、増殖を停止した休眠(dormant)状態にある。これまでに結核菌の増殖停止の鍵となる蛋白質MDP1を同定し、それがヒト潜在性結核のバイオマーカーとなることを明らかにしている。これまでの研究成果を基に、疾患の潜在化の機構解明を目指すとともに結核の潜在化の維持や誘導による新しい感染制御法を提案することを目的としている。結核潜在化の鍵分子の一つであるMDP1の発現を制御する宿主―ベクター系の構築を試行した。作成したベクターを弱毒のMycobacterium smegmatisに導入したが、MDP1の発現にともない増殖が顕著に抑制され、ベクターの改良が必要であることがわかった。現在、よりタイトに制御可能な宿主ベクター系を作成しており、結核菌の組み換え実験の大臣承認後、組み換え実験を実施する。一方、結核菌感染者におけるMDP1を含めた結核菌抗原に対する抗体とT 細胞応答を検出した。その結果、ESAT6やCFP10などの結核菌抗原に対する抗体・T細胞応答は活動期において顕著であるのに対し、MDP1やHrpAに対する応答は、潜在性結核で顕著であることが判明した。IFN-gamma産生Th1細胞に加え、IgA応答が非発症者で旺盛であることが判明し、本結果の論文発表を行った。また結核肉芽腫においてMDP1の発現部位に顕著に産生される宿主分子を同定した。試験管内の検討において本宿主分子は、結核防御に重要なサイトカインIFN-gammaの作用に関わるとともに、菌が細胞内増殖に利用する炭素源量を低下させる活性があり、結核の潜在化に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
結核潜在期抗原に対して、IgA応答が非発症者において有意に上昇していることや、新しい結核菌感染制御分子を見いだすなど、成果があがっている。
結核菌遺伝子発現の制御をより正確に人為的に行う系を宿主―ベクター系を作成し、27年度には試験管内での結核の潜在化・菌の休眠に関わる分子の発現が及ぼす影響を明らかにしたい。分子発現をうまく制御できた場合に生じる蛋白質発現や糖脂質合成における変化を観察する。MDP1やHrpAなど潜在期抗原に対するT細胞応答やIgA応答については、より広く、異なる母集団で検討すること、また反応者と病態の相関を解析していく必要がある。潜在性結核の診断やワクチン抗原としての評価を重ねていく。特に防御的Th1細胞応答での転写因子の発現レベルを観察する。IgA応答については、分泌型IgAの産生が生じているかを観察し、それが疾患の沈静化マーカーであるかについて検討を加える。MDP1の発現部位に産生される宿主分子の結核の潜在化に関わる機構について論文を作成し、英文雑誌に投稿する。個体(マウス)レベルでも、結核感受性に関わるかについての解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件) 備考 (2件)
Genome Announc.
巻: 2 ページ: e01062-01014
10.1128/genomeA.01062-14.
http://www.med.niigata-u.ac.jp/contents/research/kiso/saikin.html