研究課題/領域番号 |
24390107
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
宮田 真人 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50209912)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞運動 / 電子顕微鏡 / 一分子計測 / 寄生細菌 / 構造生物学 / 電子線クライオトモグラフィー / 急速凍結レプリカ法 |
研究概要 |
2011年と2012年の冬に世界的に大流行した“マイコプラズマ肺炎”は,マイコプラズマという細菌によって起こる.マイコプラズマは,全くユニークなメカニズムで宿主表面を滑走運動する.申請者は,これまで主に最速種のMycoplasma mobile(マイコプラズマ・モービレ)を用いて,滑走装置とその構成タンパク質などを明らかにし,今まさにメカニズムの本質に迫ろうとしている.現在提案しているモデルは,以下である.すなわち,「滑走装置は4種類の新規巨大タンパク質から形成されており,ユニークな細胞骨格構造により支えられている.滑走装置からは長さ50ナノメートルのやわらかい“あし”が多数つきだしている.ATPの加水分解により装置に動きが生じ,“あし”のタンパク質が宿主細胞表面などのシアル酸オリゴ糖をつかんだり,ひっぱったり,はなしたりして,滑走運動が起こる.」さらに,本研究ではモービレの研究で培った技術と知識を全く異なるタンパク質により滑走する,Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ)に適用し,その運動メカニズムをも明らかにする.本年度は,(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡像解析,(2) 主要タンパク質の活性と原子レベル像解析,(3) “あし”動きの予想と可視化,(4) 遺伝子操作による滑走装置の構造解析,を行い,それぞれ次項に記載する結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にあげたそれぞれの項目を以下の様に展開した.(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡像解析:モービレの“滑走装置”の単離に成功し,表面構造と内部構造のそれぞれに注目した形での構造解析を行った.内部構造については電子線クライオトモグラフィー(ECT)によりサブナノメートルオーダーの立体像を得ることができた.また,滑走に必須のタンパク質を欠損した変異株の構造を野生株のものと比較することで,それぞれのタンパク質の装置内における位置を明らかにした.また,ニューモニエ滑走装置の内部構造についてもECTにより鮮明な三次元像を得ることに成功した.(2) 主要タンパク質の活性と原子レベル像解析:マイコプラズマ両種における,シアル酸オリゴ糖をつかんだり離したりする“あし”と考えられるタンパク質の組み換え体を大腸菌で発現させ,結合活性を持つタンパク質試料を得ることに成功した.これらタンパク質の電子顕微鏡および結晶化による構造解析,を開始した.さらに,滑走に必須であることが知られているタンパク質のいくつかについて,組み換え体を用いた構造解析を行った.(3) “あし”動きの予想と可視化:モービレの滑走時の動きと結合力を,ビーズ,蛍光ラベル,光ピンセットなどを組み合わせた系を用いることで解析し,足場への結合が進行方向へは,はずれやすいことを明らかした.この性質によりマイコプラズマは一方向に進むことができると考えられる.(4) 遺伝子操作による滑走装置の構造解析:念願であったモービレにおける遺伝子操作の系を開発し,蛍光タンパク質との融合により,チューブリンホモログ(MMOB1050)とATP合成酵素ホモログ(MMOB1660)が滑走装置の部品であることを証明した.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要にあげたそれぞれの項目を以下の様に進展させる.(1) 滑走装置の三次元電子顕微鏡像解析:モービレの滑走に必須のタンパク質,Gli123の分子構造をネガティブ染色を用いた単粒子解析法で明らかにする.(2) 主要タンパク質の活性と原子レベル像解析:組換えタンパク質として得られた“あし”タンパク質のリガンドであるシアル酸オリゴ糖との結合活性を,光ピンセットと原子間力顕微鏡(AFM)で詳細に明らかにする.また組換えタンパク質に変異を導入し,結合活性に必要な構造を調べる.現在行っている電子顕微鏡および結晶化による構造解析を完成する.モービレの“あし”タンパク質であるGli349の液中における挙動を,高速AFMにより明らかにする.(3) “あし”動きの予想と可視化:滑走時の菌体の動きと,マイコプラズマが赤血球膜上を滑走している時の膜のゆがみから,“あし”による足場の引っぱりを予想する.また,昨年度に新たに取得した抗体を用いて“あし”を蛍光標識することで,その動きを可視化する.(4) 遺伝子操作による滑走装置の構造解析:ラベルタンパク質との融合により,これまでに滑走への関与が示唆されている約20種のタンパク質の滑走装置中における局在を,蛍光顕微鏡と電子顕微鏡を用いて明らかにする.さらにこれまでモービレやニューモニエでは不可能とされている相同組み換え法を開発し,あらゆる変異を導入することで,可能性のあるメカニズムを検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者の別の費目で行われている,急速凍結レプリカ電子顕微鏡観察法の技術開発が世界的な液化ヘリウム不足のために滞った.そのため,本研究で遂行予定であったタンパク質と細胞内の構造解析の一部,すなわち急速凍結レプリカ法を用いた電子顕微鏡観察と,その結果をもとに展開する実験が遂行不可能になり,研究全般での遅れを生じた. すでに液化ヘリウム不足への対策はほぼ終了し,今年度からは急速凍結レプリカ法による電子顕微鏡観察が可能になった.今後は,急速凍結レプリカ電子顕微鏡観察とその結果を活用して,全ての研究計画を実施する.
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