研究概要 |
気管支敗血症菌はIII型分泌装置を利用して,BopCとBopNエフェクターを宿主細胞内に注入する。これまでに,前者は樹状細胞に貧食阻害を誘導し,後者はIL-10の産生を促すエフェクターであることを明らかにしてきた。本研究の目的は,本来殺菌排除に関わる樹状細胞を,気管支敗血症菌がどのようにディレクティングするのかについて,エフェクターの機能から解析するものである。平成24年度の研究成果は以下に示すとおりである。 BopNはIII型分泌装置によって細胞内に注入された後,核に移行する。予備的な実験から,BopNはインポーチンβと結合することを明らかにしている。BopNとインポーチンβの相互作用を明らかにするために,種々のBopN欠失体を作製し,両者の局在を免疫蛍光顕微鏡法にて確認した。その結果,BopNの61-120a.a.欠失体で,BopNの核移行が阻害され,同時にインポーチンβの核移行も極度に減弱した。これらのことから,BopNはN末端側に存在する61-120a.a.のドメインを介しインポーチンβと相互作用することで,核に移行することが示唆された。BopNの機能をさらに掘り下げて解析するために,X線結晶構造解析にて,BopNの立体構造を決定する。bopN遺伝子を発現ベクターに組み込み,大腸菌にて大量精製系を確立している。種々の条件検討を行い,BopN結晶化の条件を見出す予定である。 今後の研究の展開:BopNならびにBopC局在化における宿主細胞のレスポンスをより詳細に解析するために,それらをコードする遺伝子を培養細胞の染色体に組み込み,Tet On-Offで発現誘導をかけられるようなシステムを構築する。エフェクターがどのような挙動を示し,感染細胞をディレクティングするのかについて,マイクロアレイを用いたmRNAの解析,感染細胞のタンパク質の発現プロファイルにて,詳細に調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ボルデテラ属細菌は肺内で長期定着を確立する。そのメカニズムの一つとして,樹状細胞を利用しIL-10産生を促すことがあげられる。今回,その責任因子であるBopNエフェクターがN末端領域を介してインポーチンβと相互作用していることを見い出した。今後,BopN野生型とインポーチンが結合できない欠損体の比較解析をおこなうことで,BopNの機能をより詳細に解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ボルデテラ属細菌は,IL-10の産生誘導を促すことで,宿主の炎症反応を抑制して感染の足場を確立する。コンピュータを利用した比較解析から,他細菌においてもBopNと類似の作用をもつエフェクターの存在が示唆された。抗炎症作用を利用した感染戦略を他細菌も有しているのかについて,その普遍性を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
エフェクター発現下で培養細胞がどのように応答するのかについて,宿主細胞のmRNAならびにタンパク質の発現プロファイルについて解析予定である。現在,エフェクター遺伝子を組み込んだ培養細胞を樹立している最中でありこれら解析にかかる費用(マイクロアレイ,iTraqによる定量解析)として,基金230万円を繰り越した。
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