研究課題/領域番号 |
24390108
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
阿部 章夫 北里大学, その他の研究科, 教授 (50184205)
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研究分担者 |
桑江 朝臣 北里大学, その他の研究科, 准教授 (60337996)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ボルデテラ属細菌 / 百日咳菌 / III型分泌装置 / エフェクター / BopC / BopN |
研究概要 |
ボルデテラ属細菌はIII型分泌装置に依存して,気道上皮に長期的な定着を確立することが知られている。これまでの研究で,申請者はIII型分泌装置によって宿主細胞に注入される2種類のエフェクターBopCとBopNが in vivo での病原性に関わることを明らかにしてきた。 そこで,エフェクター遺伝子を発現ベクターに組込み培養細胞に導入して,エフェクターの機能を解明しようとした。しかし,発現ベクターを培養細胞に導入する際にバラツキが大きく定量解析に困難をもたらした。このような導入効率のブレを解消するために,エフェクター遺伝子を培養細胞の染色体上に組み込んで,Tet On/Off システムにてエフェクター誘導が可能なシステムを構築した。 BopCは細胞傷害を誘導するエフェクターでその解析に困難を極めたが,BopCの発現をTet On/Offシステムで厳密に制御することで,培養細胞の染色体上に安定に組み込むことに成功した。また,BopC発現を誘導することで,培養細胞に細胞死をもたらすことを確認した。今後はこの系にてBopCの発現時にみられる培養細胞の変化を経時的に解析するとともに,培養細胞における遺伝子発現・宿主側因子の変動について網羅的に解析をすすめる予定である。 一方,BopNについても同様に培養細胞の染色体上に組み込んだ株を樹立しているところである。BopNはIL-10の産生誘導に関わるエフェクターであることを既に明らかにしているので,樹状細胞の培養細胞系であるDC2.4の染色体上にエフェクター遺伝子を挿入する予定である。 本手法は他の病原細菌のエフェクター解析にも応用が可能である。今後はこのシステムを他の病原菌の研究にも利用できるよう情報公開していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
宿主細胞に移行するエフェクターの機能解析については,培養細胞に発現ベクターを導入することで解析がおこなわれている。しかし,このシステムではベクターの導入効率のバラツキが定量的な解析に影響をあたえる場合があり,解析に困難をもたらしていた。 今年度はこの問題を解決するために,培養細胞(上皮細胞,樹状細胞)にエフェクター遺伝子を安定に組み込むシステムを構築することに成功した。また,この系の利用により,宿主細胞におけるエピジェネティカルな遺伝子変動も可能にしており,今後は培養細胞系にて長期的な感染モデルを作製する予定である。 このシステムを利用することで,他の病原細菌の毒素・エフェクターの解析も可能であり,社会的意義も大きいと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は,本来,殺菌排除にはたらく樹状細胞を,ボルデテラ属細菌がどのようにディレクティングするのかについて,細胞に移行するエフェクターの機能から解析するものである。 これまで樹状細胞の培養細胞系にてエフェクター研究を展開してきたが,エフェクターを発現するベクターの導入効率にバラツキがあり,定量解析に大きな問題をもたらしていた。今回,培養細胞にエフェクター遺伝子を導入する系を確立したことで,エフェクターBopC, BopNの解析が飛躍的に進展すると思われる。ボルデテラ属細菌は気道に長期的に定着することが知られているが,培養細胞がエフェクター発現に長期的に曝されることで,エピジェネティカルな変化が起きるのかについても解析が可能である。 今後はエフェクターの発現細胞株を利用することで,宿主細胞における遺伝子・タンパク質発現の変動を網羅的に解析していきたい。また,エフェクターの宿主細胞内での局在,相互作用する宿主側因子についても精査する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究計画はおおむね順調に進展しているが,分泌タンパク質の相対定量解析については,BspRの制御以外に環境中の温度によって,病原因子の発現が大きく変わることが明らかとなった。そこで,気管支敗血症菌と百日咳菌において,病原因子の発現と温度の関係について詳細に解析を行っているところである。この実験が終了次第,iTRAQを用いたタンパク質の相対定量解析をおこなう予定である。 本研究において,エフェクター遺伝子を安定に培養細胞にて,発現するシステムを確立した。この手法をもちいて,ボルデテラ属細菌のエフェクターであるBopCとBopNが宿主にどのような影響を及ぼすのかについて解析をすすめる予定である。具体的には,これらエフェクターがどのようなメカニズムで宿主に影響を及ぼすのかについて,エフェクター発現時における宿主の遺伝子ならびにタンパク質発現について精査する予定である。また,エフェクターの局在と相互作用する宿主側因子についても解析することで,ボルデテラ属細菌の感染時における宿主側のイベントを明らかにしていきたい。
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