研究課題
インフルエンザAウイルスはウイルス表面糖蛋白質であるヘマグルチニン(HA)およびノイラミダーゼ(NA)の抗原性によって複数の亜型に分けられる。ウイルス中和抗体の標的は主にHAであり、通常の中和試験において抗ウイルス血清は亜型間で交差反応性を示さないことから、亜型間交差感染防御免疫における抗体の役割に関する知見は限られていた。本研究は、亜型間交差感染防御免疫における抗体の関与を明らかにすることを目的とする。また、亜型間交差反応性モノクローナル抗体とHAの結合構造を詳細に解析し、HA分子と相互作用する抗体分子上のアミノ酸を改変することによって、抗体の亜型間交差反応性を操作する技術の確立を試みる。これまでに、進化系統学的に異なる複数のHA亜型のウイルスに対して亜型間交差中和活性を示すモノクローナルIgG抗体(S139/1)の作出とS139/1とHAの共結晶構造解析に成功している。そこで、S139/1とHAの複合体立体構造を基に、抗体とHAとの間の分子間相互作用を計算科学手法によって解析した。また、S139/1抗体産生ハイブリドーマからIgA産生細胞をクローニングし、同一のエピトープを認識するIgA(主に二量体)とIgGを用いて、異なる亜型のウイルスに対する抗ウイルス活性の違いを検証した。本研究の結果から、HA特異IgAはIgGよりも高い抗インフルエンザウイルス活性を有していることが示唆され、粘膜免疫によって誘導される抗体は亜型間交差感染防御に寄与するものと考えられた。本研究は、亜型間交差感染防御免疫における抗体の役割を実証し、交差反応性抗体を用いたインフルエンザに対する抗体療法の可能性を追求するものである。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、亜型間交差反応性モノクローナル抗体とHAの結合構造の詳細な解析を基に、抗体とHAとの間の分子間相互作用を計算科学手法によって解析する方法を確立出来た事。また、同一のエピトープを認識するIgAとIgGを用いて、抗インフルエンザウイルス活性を比較するという世界で初めての試みに成功した事。
X線構造解析によって明らかになった抗体とHAの結合様式を鋳型に、抗体の遺伝子改変のための分子間相互作用シミュレーションをさらに詳細に行い、抗体の特異性改変技術の確立と組み換え抗体の作出に着手する。また、通常の中和活性は持たないが複数の異なる亜型のウイルスに対する抗体について、感染防御免疫における役割について明らかにする。
解析がスムーズに進んだため、抗体作出、蛋白質精製および感染実験に必要な費用が予想よりも少額で済み、繰り越しが生じた。次年度の研究費と合わせて、抗体遺伝子の改変と特異性のスクリーニングをより広くスクリーニングすることが可能になった。研究費は、主に消耗品と旅費に使用する予定。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件)
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