研究課題
HIV-1アクセサリ蛋白質であるVprは、培養細胞実験を使った解析から細胞周期G2期停止活性とアポトーシス誘導活性を有することが知られていた。しかしながらVprの生体内での役割については未解明であった。そこで野生型ならびにVpr欠損変異ウイルスを血液幹細胞移植によりヒト化したマウスに接種し、Vprのウイルス複製に対する影響を解析した。感染後1-3 週以内の血漿ウイルスRNA量ならびにCD4+各分画細胞数の変化を解析した。その結果、Vprを有する野生型HIV-1を感染させたマウスのFOXP3+CD4+制御性T細胞(Treg)は、同じマウス内のCD4+ナイーブならびにメモリーT細胞に比して早期に死滅した。Treg分画では感染後1週目にはHIVp24+ならびにG2期停止細胞が多く、さらに活性型Caspase3+細胞であることよりウイルス感染誘導性アポトーシスが生じていたことがわかった。一方、Vpr欠損HIV-1ではこのような現象はまったくなかった。生体内ではTregは増殖性の高い細胞群であり、実際このヒト化マウスにおいてもKi67高発現細胞であったことより分裂状態であること、かつHIV-1の補受容体であるCCR5の高発現細胞であった。このマウス内のTregはT細胞の活性化を抑制する機能を有することは、Treg破壊抗体薬(リシン標識CD25抗体)の投与によるTreg除去によりT細胞の活性化が誘導されることより確認され、さらに血漿HIV RNAレベルが10倍以上増加していた。これらの結果より、生体内においてはVprがTregへのHIV-1の感染をまず増強することから始まり、その後のこのウイルスの体内における複製をさらに促進することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
長年のなぞであったHIV Vpr蛋白質の生体内おける機能を解明したこと、HIV感染症における制御性T細胞の意義を明らかにしたことが特筆に値する。達成度は高い。
HIVをはじめとするレンチウイルスは、感染初期段階において細胞増殖活性の高い制御性T細胞への感染性を獲得したことにより、このウイルスが生き残る戦術を選択しているのではと考えられる。そのさらなる分子機序の解明を通じて、HIVがどのようにT細胞の分子を利用して複製能を獲得して行ったのかその進化解明研究に発展させる。さらに、その研究領域の国際的広がりから考えて、次年度の実験施行はHIV研究について、特にウイルス性因子と細胞性因子の関係性の解析を集中的に行う予定である。
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