研究概要 |
HIV感染症の根本的な克服には、宿主-ウイルス相互作用に基づいたウイルス増殖機構や病原性発現メカニズムを解明し、それらのエビデンスに基づいた薬剤標的設定を行うことが必要である。本研究課題では我々が独自に開発した無細胞タンパク質合成技術を駆使し、HIVタンパク質と内因性抗レトロウイルス宿主因子との相互作用をピンポイントに阻害する新規の分子や阻害剤の同定を目指した研究を行った。初年度は無細胞タンパク質合成系を用いた宿主-ウイルスタンパク質複合体の再構成と、それらの相互作用アッセイ系の構築を行った。まず、無細胞タンパク質合成技術を用いて、APOBEC3G,Tetherin/BST2,SAMHD1などの宿主抗ウイルス因子を合成した。また、アルファスクリーンを用いて、宿主抗ウイルス因子とそれらの拮抗因子であるウイルスタンパク質(Vif,Vpu,Vpx)との相互作用を基盤とした、高感度でハイスループットな相互作用アッセイ系を構築した。アッセイ系の具体的な原理としては、(1)Flagタグを融合したウイルスタンパク質と、biotin化標識をした宿主因子をそれぞれ合成し、(2)各タンパク質と宿主性因子または化合物を混和後、アルファスクリーンを用いてエネルギー転移による相互作用シグナルを検出することで、相互作用を阻害する因子または化合物を同定した。本年の成果として、ストレス誘導型タンパク質リン酸化酵素群が、核酸系の逆転写酵素阻害剤により誘導され、vif-APOBEC3Gの相互作用を顕著に阻害することを見いだした。これらの生理的意義について、T細胞株であるJurkat,CEM,CEM-SS細胞を用いて確認したところ、当該因子の作用によりウイルス粒子中のAPOBEC3Gの取り込みの増加とウイルス粒子の感染性低下が認められた。
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