研究課題/領域番号 |
24390116
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮澤 正顯 近畿大学, 医学部, 教授 (60167757)
|
研究分担者 |
河原 佐智代 近畿大学, 医学部, 講師 (60297629)
博多 義之 近畿大学, 医学部, 助教 (30344500)
高村 史記 近畿大学, 医学部, 助教 (90528564)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | レトロウイルス / APOBEC3 / 中和抗体 / Tリンパ球 / 標的細胞 / 胸腺 / 持続感染 |
研究概要 |
APOBEC3は一本鎖DNAを標的とするシチジンデアミナーゼであり、その遺伝子多型はマウスにおいて外来性レトロウイルス感染に対する自然抵抗性と相関する。マウスAPOBEC3多型はレトロウイルス感染時の中和抗体産生を制御するが、その分子機構は未解明のままである。本研究は、APOBEC3分子の機能的多型が如何にしてウイルス中和抗体産生を制御しうるのかを、Bリンパ球の分化・活性化と生存に関わる細胞・分子機構と、レトロウイルス複製との相互作用の観点から解明することを目的とした。 今年度は、免疫系細胞サブセットを欠損する遺伝子改変マウスにレトロウイルスを感染させ、Tリンパ球応答及び抗体産生が感染標的細胞の選択にどのような影響を与えるかを解析した。その結果、CD8陽性Tリンパ球の欠損は感染病態に影響を与えないが、CD4陽性Tリンパ球欠損ではウイルス排除が全く起こらなくなること、一方Bリンパ球欠損では赤芽球からのプロウイルス排除は正常に起こり、骨髄芽球系でのウイルス複製が持続することが示された。従って、レトロウイルス認識排除の機構は標的細胞の分化系統によって異なり、抗体産生は骨髄芽球系での複製制御に重要である。また、マウスレトロウイルスが成体で胸腺に持続感染し、胸腺上皮細胞及び樹状細胞での抗原提示を引き起こすことで、ウイルス抗原特異的なTリンパ球前駆細胞に対する負の選択を生じさせることを明らかにした。このため、レトロウイルス感染マウスではウイルス排除に必要なエフェクターT細胞が誘導されなくなる。 更に、TLR7シグナル欠損下でも予めCD4陽性Tリンパ球をウイルス抗原で感作しておくとウイルス中和抗体が産生される現象を解析し、移入実験によってウイルス抗原特異的CD4陽性Tリンパ球と中和抗体産生性Bリンパ球の相互作用の重要性を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目標のうち、レトロウイルス感染細胞の排除機構及びTリンパ球反応性の喪失の有無については、先ず感染細胞の排除機構は標的細胞の分化系列によって異なること、CD8陽性T細胞の欠損はウイルス感染細胞の排除に殆ど全く影響を与えないこと、一方CD4陽性Tリンパ球の欠損でウイルス感染細胞の排除が全く起こらなくなることを明らかにした。従って、ウイルス感染細胞の排除に働くエフェクター機構は、CD8陽性細胞傷害性T細胞ではなく、我々が以前に報告したCD4陽性細胞傷害性Tリンパ球、及びCD4陽性Tリンパ球によって活性化されるNK細胞であると考えられる。実際、NK細胞の除去によってウイルス感染細胞の排除が阻害された。また、マウスレトロウイルスが胸腺に持続感染し、ウイルス抗原を認識できるTリンパ球の分化を強く抑制することを明らかにした。この場合、未感染マウスからナイーブTリンパ球を移入することでウイルス抗原特異的なエフェクターT細胞が活性化されるから、二次リンパ組織におけるT細胞活性化の機構に異常はなく、ウイルス抗原特異的ナイーブTリンパ球が胸腺で作られるか否かが免疫応答成立の有無を決めていることが明らかとなった。 昨年度見出したTRL7を介しないBリンパ球活性化機構については、遺伝子改変マウスを用いた解析で、TLR7が中和抗体産生に直接必要なのではなく、別の免疫細胞機能を介して中和抗体産生に関わることを明らかにした。移入実験により、ウイルス抗原特異的なCD4陽性Tリンパ球が存在すればTRL7欠損下でも中和抗体産生が起こることが明らかとなり、現在CD4陽性Tリンパ球によって与えられるどのようなシグナルがTLR7シグナルを代替できるのか、サイトカイン産生を含めた解析が順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
過去2年間の成果を念頭に置き、平成26年度は以下の点にを明らかにし、研究計画を完成する: 1)TLR7欠損Bリンパ球が、ウイルス抗原特異的CD4陽性Tリンパ球の存在下であれば中和抗体産生細胞へと分化できるしくみを、Tリンパ球のサイトカイン産生とBリンパ球細胞内シグナル伝達の両面から解明する。既にウイルス抗原特異的CD4陽性Tリンパ球のサイトカイン産生パターンを明らかにしており、候補となる各サイトカインの中和抗体と、サイトカイン受容体ノックアウトマウスを用いた解析を継続する。また、TLR7の下流シグナルについても、CD4陽性Tリンパ球による中和抗体産生誘導にはBリンパ球のMyD88が必要でないことを明らかにしているので、MyD88を介さないサイトカインシグナル伝達系について検討を進める。 2)APOBEC3欠損下でウイルス抗原特異的なBリンパ球が排除される可能性について検討する。既に、APOBEC3欠損下ではマウスレトロウイルスがBリンパ球に感染することを明らかにしている。また、APOBEC3欠損下で生じたレトロウイルス感染Bリンパ球にはNK細胞受容体リガンドの発現亢進があり、ウイルス感染細胞の排除はCD8陽性細胞傷害性T細胞によるよりもNK細胞によって起こることも明らかにしている。そこで、NK細胞の除去及びNK細胞受容体の抗体投与による阻害が、感染初期の中和抗体産生に与える影響を解析する。また、リンパ球におけるアポトーシスが強力に阻害されるLck-Bcl2遺伝子導入マウスなどを用い、感染Bリンパ球のアポトーシスを抑制することで中和抗体産生が促進されるかを解析する。 3)最終年度にあたり、これまで、及び今年度の研究成果を国際学会で発表し、英文原著論文を国際誌に投稿する。
|