研究課題/領域番号 |
24390121
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
近藤 元就 東邦大学, 医学部, 教授 (20594344)
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研究分担者 |
石川 文雄 東邦大学, 医学部, 講師 (10130345)
田中 ゆり子 東邦大学, 医学部, 助教 (40396685)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 免疫寛容 / 自己免疫 |
研究概要 |
本研究では、T細胞特異的に発現する核蛋白質Special AT-rich sequence binding protein-1(SATB1)欠損により、なぜ免疫寛容破綻が生じるのかを、中心性免疫寛容、末梢性免疫寛容に分けて解析を行っている。 本年度は、血球細胞系またはT細胞特異的にSATB1の発現を欠損するマウス(vav-Cre-SATB1, lck-Cre-SATB1)と、雄マウスのH-Y抗原特異的T細胞レセプター(TCR)を発現するH-Yトランスジェニック(Tg)マウスまたは、MHCクラスII拘束性ニワトリ卵白アルブミン(OVA)ペプチド特異的TCRを発現するOT-II Tgマウスと胸腺上皮細胞にOVA抗原を発現するRIP-mOVAのダブルトランスジェニックマウスを用いた検討により、SATB1欠損による胸腺内ネガティブセレクション不全の可能性を示唆する結果が得られた。また骨髄移植の実験より、SATB1欠損による胸腺内ネガティブセレクション不全は、胸腺細胞内在性の要因による可能性を示唆する結果が得られた。これまでの検討より、vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウスでは、胸腺内ポジティブセレクションの異常は明らかであることから、SATB1欠損による全身性自己免疫疾患発症には、中心性免疫寛容が重要な働きをしていることが示唆された。 また、vav-Cre-SATB1マウス、 lck-Cre-SATB1マウスを用いた実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルの検討では、我々の予測に反してvav-Cre-SATB1マウス、 lck-Cre-SATB1マウスでは、EAEの発症が認められなかった。この結果から、全身性に発症する自己免疫疾患と臓器特異的に発症する自己免疫疾患では、それぞれ異なる免疫寛容系の破綻に起因する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では、1,ポジティブセレクション不全を主因とするネガティブセレクション不全の可能性の検討、2,lck-Cre-SATB1マウスにおける自己免疫疾患発症抑制の試み、3,実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルによるSATB1欠損T細胞の機能解明、という3つの実施計画を立てた。1については、研究実績の概要に記したとおり、SATB1欠損による全身性自己免疫疾患発症には、中心性免疫寛容が重要な働きをしていることが示唆される結果が得られている。2については、制御性T細胞(Treg)の機能解析をin vitroで行った。その結果、vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウスのTreg細胞は、野生型マウスのTreg細胞機能と有意な差は認められなかった。しかし、マウスのTreg細胞のin vivoへの移入はまだ行えておらず、in vivoでの機能解析は平成26年度に持ち越すこととなった。3については、vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウスにおけるEAEモデルでは、野生型に比べ重篤な自己免疫疾患症状を呈するであろうと予測されたが、実験の結果vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウスはEAE抵抗性を示した。この結果より、自己免疫疾患の発症に関与する免疫寛容の破綻について検討する新たな課題を発見することとなった。 以上の理由により、本年度の研究計画については、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでの検討に基づき、胸腺内ネガティブセレクション不全が胸腺内の微小環境に起因するものかどうかを調べる。H-Y TCR陽性vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウスまたは、OT-II TCR/RIP-mOVA陽性vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウスの骨髄をそれぞれ,野生型またはRIP-mOVAマウスに移入し、ネガティブセレクションの改善が認められるかを詳細に調べる。さらに、昨年度予備検討までしか実施できなかったTreg細胞のin vivoへの移入実験を行う。vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウスの生後早期に野生型マウスの胸腺由来Treg細胞を腹腔内に移入し、対照と比較しつつ自己免疫疾患発症の状態を調べる。自己免疫疾患発症の評価は、抗核抗体価、尿蛋白値、白斑の状態等を用いて行う。また、自己免疫疾患発症後のマウスに野生型マウスの胸腺Tregを移入した場合、自己免疫疾患の治療への可能性を検討できることになる。これらの実験により自己免疫疾患発症の予防、治療の検討が行えると期待される。さらに、SATB1標的遺伝子の解明を行う。vav-Cre-SATB1マウス、lck-Cre-SATB1マウス胸腺ダブルポジティブ細胞分画から、CD69陰性細胞またはCD69陽性細胞をフローサイトメーターで単離し、gene chip解析を行う。SATB1欠損により発現亢進、または発現抑制している遺伝子、転写因子を見いだせた場合は、その遺伝子の強制発現、siRNAによる発現抑制を行い、T細胞分化への影響を詳しく調べる。 これらの検討から、SATB1により発現制御されている遺伝子が明らかになれば、免疫寛容に関与する遺伝子群の同定が行えると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
一万円程度の金額が未使用分として発生したが、おおむね予算計画通り支出したと思われる。 26年度の計画では、遺伝子発現解析を行う予定があるので、その解析費用に用いる予定である。
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