「痛み」は、がん患者が経験する最も困難な苦痛であり、その発症率は進行期で90%にまで達する。がん細胞が神経に浸潤した場合、モルヒネなども奏効しない難治性疼痛(神経障害痛)が発症し、患者のQOLを著しく低下させるが、その疼痛強度には概日性の変動が認められる。本研究では腫瘍の浸潤によって誘発される神経障害痛の概日変動のメカニズム解明を通じて、難治性がん疼痛の治療薬開発に向けた基盤研究を行う。本研究目的に則し、当該年度は以下の3項目について検討を行った。(1)がんによる神経障害痛の概日リズム形成部位・細胞の特定。(2)体内時計(時計遺伝子)と神経障害痛をつなぐ分子を同定。(3)上記分子の治療標的としての評価
平成25年度までの検討において、神経障害痛の概日リズム形成には脊髄グリア細胞内に発現する副腎皮質ホルモン作動性のリン酸化酵素が重要な役割を担っていることを報告していた。昨年度(平成26年度)に実施した実験において、上記の因子に加え、がん細胞内に発現するケモカインもがん性疼痛の概日リズム形成に関与していることを見出した。そのため、本ケモカインのがん細胞内における発現リズム形成メカニズムについて検討したところ、分子時計を形成する時計遺伝子の一部が、本ケモカインの転写制御に関与していることが明らかになった。また、同定したケモカインの受容体阻害薬を担がんマウスに投与したところ、疼痛の有意な緩和が確認された。
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