研究課題/領域番号 |
24390152
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒木 敦子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任講師 (00619885)
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研究分担者 |
乃村 俊史 北海道大学, 大学病院, 助教 (50399911)
岸 玲子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任教授 (80112449)
清水 宏 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00146672)
多島 秀司 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 学術研究員 (10619886)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 環境 / アレルギー・喘息 / アトピー性皮膚炎 / 衛生 / 遺伝子 |
研究概要 |
近年、小児におけるアトピー性皮膚炎の有病率増加、および寛解の減少が指摘されている。そこで、本研究では出生コーホート「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」の7歳児童を対象に、アトピー性皮膚炎の環境要因として自宅環境中のダニアレルゲンや合成化学物質曝露、遺伝的素因としてフィラグリン遺伝子の変異、さらに遺伝的素因と環境曝露との複合要因について明らかにすることを目的とする。 平成25年度は、7歳に達した対象者1693人にアトピー性皮膚炎を含むアレルギーに関する調査票を配付し、995人から回収した。さらに、環境調査に協力すると回答が得られた540人に、郵送法にて自宅ダストと児童の尿採取キットを順次送付し、413名から回収した。 アトピー性皮膚炎の評価は、世界的に用いられるISAAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood)調査票を用いて評価したところ、有病割合は20%だった。 平成25年度までに収集したダスト975検体についてELISA法を用いてダニアレルゲンDer f1およびDer p1を分析したところ、Der f1は検出率96.5%で中央値(25%-75%値)は1.39(0.49-4.05)μg/g fine dust、Der p1 は検出率36.1%で75%値0.37μg/g fine dustだった。アトピー性皮膚炎の有無とダニアレルゲン量に関連はなかった。また、539人の臍帯血中DNAを抽出し、FLG変異6カ所(321delA、Q1701X、S2554X、S2889X、S3296X、K4022X)をシークエンス解析した。この結果、変異カ所は60カ所、2名は2カ所の変異をヘテロで有しており、変異の保有者は56人(保有率は10.4%)だった。最も変異の保有が多かった部位はS2889X、次いでK4022Xだった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、平成24年度との総計で3000件の7歳児のアレルギーに関する調査票を収集し、自宅ダスト1200サンプルを回収することができた。ダストと併せて、7歳時の自宅環境、特にこれまでに喘息やアトピー性皮膚炎との関連が指摘されてきた床材、ペットの有無、ダンプネス(カビの生育、カビ臭、結露、水漏れ)、暖房燃料や排気の有無などについて調査票を用いて回答を得ている。平成26年度には、得られたデータの入力、データクリーニング、データの連結を実施し、統計解析に用いることができるようにする。これまでに、合計1050人のFLG変異を解析した。調査は順調に進展しており、FLG遺伝子およびダニアレルゲンのデータを用いて統計解析を実施し、環境と遺伝子の関連について論文を執筆する。また、交絡調整として解析に必要な母親の妊娠中の化学物質曝露、食生活、喫煙・飲酒の調査は既に実施済みであり、データが保存されている。特に、喫煙については、母親の妊娠中喫煙曝露として血中コチニン濃度に加えて7歳児の尿中のコチニン濃度も分析しているため、これらバイオマーカーによる喫煙曝露の評価が可能である。近年、むしろ喘息のリスクである可能性が指摘されている妊娠中の葉酸過剰摂取についても、妊娠中の葉酸値が測定済みであり、これらのデータはすぐに利用が可能となっている。 加えて、平成26年度には、引き続き1700人程の7歳児にアレルギーに関する調査票を発送する。従って、これまでの回収率から、アレルギー有病については1000人程のデータを回収し、450程度のダストサンプルを収集できる見込みである。まだ分析が終了していない52検体のダストと併せて500検体のダニアレルゲン量を分析し、アトピー性皮膚炎の有病およびFLG変異の有無と曝露との関連を解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
収集したダストサンプル1200検体のうち、50検体程のダニアレルゲンの分析が未実施である。平成26年度には引き続き450検体のダストサンプルを収集予定であるため、併せて500検体のダニアレルゲンの分析を実施する。FLG遺伝子の解析を行った1066のうち、アトピー性皮膚炎の有病率20%から、ケースは210人程度であると予測できる。平成24-25年度に解析した結果、FLG変異の保有者は合計1066人中100人で保有率は9.4%であった。今年度は、FLG変異の保有とISAAC調査票を用いたアトピー性皮膚炎有病の一致率を確認する。加えて、FLG変異の有無で層別化して、生後7歳になるまでのアレルギー既往の変化について検討し、FLG変異の有無によるアトピー性皮膚炎の発症、持続あるいは寛解の自然史を解明する。さらに、アトピー性皮膚炎有病に与える環境要因として、皮膚のバリア機構であるFLG変異を有する群では、より少ないアレルゲン量でも症状を呈するかを明らかにする。ダニアレルゲンに加えて、本対象集団では、プラスチックの可塑剤由来でアレルギーのアジュバント作用が懸念されているフタル酸エステル類やリン系難燃剤濃度を別途分析している。そこで、これら環境化学物質曝露とFLGの変異の有無によるアトピー性皮膚炎との関連において介在要因となっているか、具体的には、より低濃度での発症の有無を明らかにする。本研究で交絡要因として用いる喫煙曝露については、母体血中コチニン濃度に加えて7歳児の尿中のコチニン濃度も分析しており、胎児期および7歳時の喫煙曝露をバイオマーカーを用いて評価することが可能である。また、親のアレルギー既往、7歳時の住宅環境として住宅構造、床材、壁材、ダンプネス等を用いる。最終的に、児童のアトピー性皮膚炎へのFLG遺伝子要因と環境要因を包括的に解析し、明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に予定をしていたダニアレルゲンの分析について、収集したダストサンプル1200検体のうち100検体程が実施出来なかったため。 前年度に実施が出来なかった100検体程と、今年度に収集予定の400検体程の合わせて500検体程のダニアレルゲンの分析を実施する。
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