研究課題/領域番号 |
24390181
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
常山 幸一 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 准教授 (10293341)
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研究分担者 |
藤本 誠 富山大学, 大学病院, 講師 (30377337)
平 修 福井県立大学, 生物資源学部, 准教授 (30416672)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | メタボリックシンドローム / NASH / 動物モデル / 漢方薬 / 質量顕微鏡 |
研究概要 |
メタボリックシンドローム(MetS)の肝での表現型であるNAFLD/NASH は21 世紀の肝臓病とも呼ばれ、先進諸国で患者数が急増している。世界中で有効な予防法や治療法が研究されているが、いまだ有効な薬物は確立されていない。我々は、漢方薬や生薬は食に近く安全に長期摂取が可能であり、MetS やNASH の予防的投与に最適な薬物と考えている。本研究では、独自に開発したMetS・NASH モデルマウスを用い、真に有効な漢方薬や構成生薬をエビデンスに基づいて多角的に探索する。また、生薬に含まれる種々の低分子化合物の局在を細胞レベルで可視化できる新技術(質量顕微鏡)を応用し、動物モデルの各臓器における化合物・代謝産物の局在を明らかにする。また、それら化合物が直接コンタクトしている標的細胞を同定し、薬剤の作用機序の解明を試みる。これまでに、ICR-MSGマウスやTSODマウス、高脂肪食投与マウスなど、複数のMtS-NASHモデル動物を用いて、種々の漢方薬による病態抑制効果とそのメカニズムを経時的に検討してきた。その結果、桂枝茯苓丸や防已黄耆湯などの漢方薬や、紅麹、フィコシアニン、エイコサペンタエン酸などの天然薬物、サプリメントに、優れた抗MtS効果がある事が明らかとなった。なかでも、防已黄耆湯は、複数の疾患モデル動物で共通した効果(脂肪細胞炎症抑制効果、脂質代謝改善効果)を示しており、マクロファージへの直接作用が想定される基礎実験結果も蓄積されている。 低分子物質の質量顕微鏡解析については、技術的な予備検討を重ね、鉄をコアにしたナノ粒子のアシストによって、2オクチン酸などの低分子物質をイオン化することに成功した。現在、コア成分をCr, Mn, Coの酸化物などに変更した種々のナノ粒子を用い、それぞれの低分子化合物のイメージングに最も適した組み合わせを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる機序に基づき、ヒトに近い病理組織像を呈するMetS-NASH-発癌モデルを用いた検討を継続し、漢方薬では防已黄耆湯の高い抗MetS効果を新たに見出すことに成功した。また、高コレステロールと高脂肪食の組み合わせにより、肝線維化が著明に亢進する事を見出し、新しく開発したMetS-NASHモデルの肝臓におけるコレステロール局在を質量顕微鏡でイメージングすることに成功した(国際誌採択済)。現在、各種脂肪酸のMetSやNASHにおける役割を質量顕微鏡を用いて解析中であり、有望な結果が得られつつある。 また、標的とする低分子化合物に最適なナノ粒子コア物質を用いる事で、より高感度の質量顕微鏡解析が可能になり、in vivoでの実験系を用いた漢方薬・生薬の含有成分や代謝産物のイメージングに向けて、技術的基盤が整った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでの知見を集積し、防已黄耆湯に含まれる低分子化合物を標的に、その局在を内臓脂肪、膵臓、肝臓、など臓器別に明らかにする。また、これら臓器の連続切片を用いて、低分子化合物の局在と関連しうる解剖学的特徴や特異的な細胞分布などを明らかにする。我々は最近、DIAR系マウスの新生児期にMSG処置をして誘導する獲得型メタボリックシンドローム解析モデル“DIAR-MSG マウス”が、従来のICR系を用いたMSGマウスよりも、よりヒトに類似した病理組織所見を呈する事を報告した。DIAR-MSGマウスは、肥満、糖尿病、高脂血症を経て脂肪性肝炎~肝細胞癌を発症するヒトに近い疾患自然史を有し、各臓器の病理組織像も極めてヒトに類似していることから、現時点で、ヒトへのトランスレーションに最も適したなモデル動物の1つと考えられる。本年度の研究は、従来用いていたICR-MSGではなく、DIAR-MSGマウスを用いて行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまで独自に開発してきたMetS-NASHモデル動物(TSODマウスやDIAR-MSGマウスなど)にちて積極的に国内外の学会や学術誌で報告を行った結果、これらのモデル動物が様々な研究機関でも使用されることとなり、多くの共同研究に発展した。その結果、外部の機関が動物実験を担当し、臓器等を採取後に病理組織学的解析や質量顕微鏡解析を我々が淡ようする形態の共同研究が増加した。病理学的解析は動物実験終了後、臓器を採取してからスタートするため、昨年度行った動物実験の多くは、解析が引き続く年度に行われることとなる。今回、動物実験に必要と考えていた研究費は減少することとなったが、今後は逆に病理学的解析や質量顕微鏡解析の費用が増加する見込みである。 東証に計画していた実験内容に加え、昨年度に会した多施設との共同研究において、病理学的解析、質量顕微鏡による解析の費用が増加する事が見込まれるため、追加検討に係る費用として繰り越された金額を充当する。
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