研究課題
【背景】酸化ストレスは心血管疾患発症の強力な促進因子である。これまで、酸化ストレスによりサイクロフィリンA (CyPA)が血管平滑筋細胞より分泌され、酸化ストレス増幅の悪循環に寄与することを報告した。【目的】心血管病の発症・進行における酸化ストレス分泌蛋白CyPAの役割および臨床的有用性を検討する。CyPA遺伝子改変マウスおよびその受容体欠損マウスを用い、詳細な分子学的基盤解明を行う。さらに、心血管系疾患患者由来の組織や血清を用いた発症前診断法の開発を目指す。基礎研究および臨床研究の両面から、心血管病の新しい診断・予防・治療法の開発を目指す。【結果】CyPA遺伝子欠損マウスおよび血管平滑筋特異的過剰発現マウスを用い、大動脈瘤モデル、頚動脈内膜肥厚モデル、動脈硬化モデル、心肥大モデルでの検討を行った。いずれのモデルにおいてもCyPAは心血管疾患発症に重要であり、動脈硬化進行や大動脈瘤形成において必須蛋白であることが分かった。また、心筋梗塞患者の冠動脈硬化病変の免疫染色により、不安定プラークの病変部に強いCyPAの発現が確認された。さらに、冠動脈の狭窄病変を有する患者において、末梢血CyPA濃度が健常者に比して有意に上昇していることが確認された。この末梢血CyPA濃度は冠動脈病変の重症度に応じて有意に上昇することも確認された。【結論】CyPAは動脈硬化を促進する重要蛋白であると同時に、分泌蛋白としての特性から、新しい心血管疾患のバイオマーカーとして有用であることが示唆された。【学会・論文報告】以上の研究成果を、国内外の学会やシンポジウムで報告し(日本循環器学会総会シンポジウム、米国心臓病学会議、欧州心臓学会議)、論文発表を行った。さらに、新しい診断薬としての可能性につき特許申請を行った。「サイクロフィリンAによる心血管疾患の検査方法」(2012年10月30日)。
2: おおむね順調に進展している
ヒト血漿中CyPA濃度の測定法開発に成功し、冠動脈狭窄を有する患者では、器質的狭窄の無い対象患者に比して血漿中CyPA濃度が著しく上昇していることを報告した(Satoh K, Shimokawa H, et al. Circ J. 2013)。また、各種の酸化ストレス誘導因子(加齢・喫煙・高血圧・糖尿病)を有する患者で著しく上昇していることも分かった。また、各種の治療薬導入後の治療評価にも有用であることが確認された。従って、CyPAは動脈硬化性疾患の早期診断・発症前診断のための診断薬開発に有用である可能性が出てきた。以上の成果を基に、東北大学では、特許出願(特願2012-239615:下川宏明、佐藤公雄)を行った。【発明の名称】 「サイクロフィリンAによる心血管疾患の検査方法」 国際特許出願(全指定);国際出願番号:PCT/JP2013/079326 国際出願日:2013年(平成25年)10月29日 出願人:下川宏明、佐藤公雄 (国立大学法人東北大学)基礎出願(日本):特願 2012-239615 優先日:2012年(平成24年)10月30日
これまでの基礎・臨床研究の成果を実用化させるべく、心血管疾患患者の血漿を用いた発症前診断試薬の開発と臨床応用を目指す。CyPAに着目した診断薬は、大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症(ASO)等の他の動脈硬化性疾患にも応用可能である。現在のインフルエンザ診断キットのように、高い確度を持って動脈硬化性疾患を有する患者を迅速に識別できる迅速検査試薬の開発を行う。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 8件) 図書 (6件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
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http://www.cardio.med.tohoku.ac.jp/class/staff/index02.html#sato