研究課題
基盤研究(B)
現在、我が国における心不全患者は160万人と言われ、人口の高齢化とともに、その数は年々増加の一途をたどっている。高齢者の心不全の約40%は、心臓収縮力が保たれているにもかかわらず心不全を発症する。これは拡張機能障害に基づくことから、拡張不全と呼ばれている。駆出率が低下した収縮不全でも、予後を規定している重要な要素の1つが拡張機能で、収縮不全の発症前段階には拡張不全は必発である。拡張不全は、発症の原因病態解明がなされていないため、創薬目標が明確になっておらず、複数の大規模臨床研究でも生命予後を改善する治療法が確立していない。我々はDNA点変異を誘発するアルキル化剤(ENU)を用いたメダカ変異体スクリーニングから、心臓拡張機能異常を示す突然変異体 (Non-Spring Heart: nsh) を樹立した。ポジショナルクローニング法をおこなうことにより、nsh変異体はTitin遺伝子(TTN)に点変異があることを発見した。変異部位は筋特異的ユビキチンリガーゼであるMuscle Ring Finger (MURF) 結合部位であった。nsh変異体ではTTNとMURFの結合増強により、柔軟なTTN isoformのユビキチン化による分解で、固いTTN isoformへ変化することを発見した。実体顕微鏡下で生体心筋細胞のmotion vectorを用いて心筋の拡張速度を解析したところ、変異体動物で拡張速度の低下を認めることを発見した。
2: おおむね順調に進展している
拡張不全変異体の原因遺伝子がタイチンの点変異であることが確認できていること。ヘテロの遺伝子変異を持った動物の掛け合わせにより、メンデルの遺伝の法則にしたがって25%の変異体表現型を示す動物が継続的に得られていること。ヒトの肥大型心筋症家系においても同じように拡張不全を示す家系において、タイチンの変異を発見していること。変異体動物においてMURFの細胞内の局在変化を発見できていること。
拡張不全を示すヒトの家系で、TTN遺伝子のC末端M-line領域でメダカ点突然変異が存在する部位周辺に、他にも変異が存在しないか調べる。すでに発見している変異については、培養心筋細胞内、メダカ受精卵へのmRNA強制発現によりin vivoの機能解析を行う。In vitroの解析としては、変異の有無によるTTNとMURFの結合強度の変化を免疫沈降法で調べる。さらにTTN変異の有無によるユビキチン化の変化についても、ウェスタンブロット法を用いて定量化する。分子レベルで左室拡張機能を規定する要因としては、心臓の線維化および細胞骨格の構成要素、心筋細胞内Ca動態に関与する分子や一酸化窒素(NO)などの体液性因子が考えられている。これらの要因とTTN遺伝子とのつながりに注目して、nsh変異体の拡張不全の病態を解析していく。変異によるttkの機能変化と心筋細胞内Ca濃度の変化に注目した解析をおこなう。
変異体メダカの表現型の解析と心臓拡張機能評価を完了する予定であったが、変異体メダカを掛け合わせた胚がすべて♂化していることが判明し、野生型のメダカと再度交配を行なうために実験の遅延が生じた。変異体動物、野生型動物の維持、管理費に使用する。ヘテロ変異体の掛け合わせによる子孫の遺伝型解析のための費用に使用する。
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