高齢者心不全の40%は、心収縮力が保たれているにもかかわらず心不全を発症する。これは拡張機能障害に基づくことから、拡張不全と呼ばれており、予後を改善する効果的な治療方法はない。我々はDNA点変異を誘発するアルキル化剤を用いたメダカ変異体スクリーニングから、心臓拡張機能異常を示す突然変異体 (Non-Spring Heart: nsh) を樹立した。ポジショナルクローニング法により、nsh変異体はTitin遺伝子(TTN)に点変異があることを発見した。変異部位は筋特異的ユビキチンリガーゼであるMuscle Ring Finger (MURF) 結合部位であった。nsh変異体ではTTNとMURF結合増強により、柔軟なTTN isoformのユビキチン化による分解で、固いTTN isoformへの変化が観察された。さらに、既知の原因遺伝子に変異がない家族性肥大型心筋症96家系のTTN遺伝子について、nsh変異体で認められたM-line変異部位周辺の検索を行ったところ、これまでに報告のない拡張不全を示す家族性肥大型心筋症の2家系を発見した。興味深いことに、拡張型心筋症に移行するタイプの肥大型心筋症の家系であった。これらのメカニズムの解析と平行して、ナトリウム利尿ペプチド遺伝子プロモーターとcre-loxシステムを用いて、拡張機能正常時は赤色蛍光の心臓を示し、拡張機能低下時には緑色蛍光の心臓を示す小型魚類生体内可視化システムを構築して将来の創薬に向けた基盤作りをおこなった。
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