研究課題
DPP-4阻害薬が心不全改善効果を有するのか、またその効果に血中アデノシン増加が関係するのか、さらに血中アデノシン増加のメカニズムを明らかにしてDPP-4阻害薬による新しい包括的心不全治療法を開発するため、本年度は詳細な血行動態の評価が可能な大動物による狭心症(虚血性心不全)モデルを用いてDPP-4阻害薬の虚血心筋における冠血流量増加作用を検討した。麻酔開胸犬にて冠動脈左前下行枝(LAD)を頸動脈からの体外循環バイパスチューブで選択的に灌流し、冠灌流圧(CPP)、冠血流量(CBF)を計測した。心血行動態の安定後、CBF を対照時の50% に低下させ、以後CPP を一定に保ち心筋虚血を作成した。CPP 低下5 分後、DPP-4阻害薬(アログリプチン)をバイパスチューブを介してLAD 内に20 分間持続投与した。アログリプチンの冠動脈内投与により、CBFに変化は認められなかった(49±10→41±2 ml/100g/min)。昨年度の検討より、DPP-4阻害薬は心筋梗塞サイズを縮小させたが、そのメカニズムとしては、虚血心筋における冠血流量増加作用ではないことが明らかになった。そこで、急性心筋梗塞モデルで得られた壊死組織周辺の生存心筋サンプルのDNAマイクロアレイ法による網羅的な遺伝子発現の解析を行った。アログリプチン内服群3頭、対照群3頭で遺伝子発現の変化を検討したところ、全搭載遺伝子43035個の中で、発現が1.5倍以上に増加した遺伝子を314個、発現が67%以下に低下した遺伝子を92個同定した。得られた遺伝子群については、TaqManプローブを用いた定量PCRを行うことにより、発現の変動を確認した。
2: おおむね順調に進展している
「DPP-4阻害薬によるアデノシンの心血管保護を介した新しい心不全治療の開発」を遂行するために、平成24年度は大動物を用いた急性心筋梗塞モデルのプロトコールを実施し、DPP-4阻害薬による心筋梗塞サイズ縮小効果を明らかにし、平成25度は大動物を用いた狭心症モデルのプロトコールを実施し、DPP-4阻害薬は虚血心筋において冠血流増加作用はないことを明らかにしたことより、心筋梗塞サイズ縮小効果は冠血流量増加作用によるものではないことが明らかとなった。急性心筋梗塞モデルで得られた心筋サンプルのDNAマイクロアレイ法による網羅的な遺伝子発現の解析により発現変動の認められた遺伝子を同定したことから、おおむね順調に進展していると評価した。
当該研究課題である「DPP-4阻害薬によるアデノシンの心血管保護を介した新しい心不全治療の開発」を遂行するために、今後、大動物を用いた右室高頻度ペーシング(非虚血性心不全)モデルにおいて、DPP-4阻害薬の心不全改善効果の検討と得られた心筋サンプルのDNAマイクロアレイ法による網羅的な遺伝子発現の解析を行い、急性心筋梗塞モデルで得られた壊死組織周辺の生存心筋サンプルで発現の変動を同定した遺伝子と照合して、特定遺伝子のプロファイリングを行い、特定遺伝子のin vitroとin vivoでの機能解析を行うことで、DPP-4阻害薬によるアデノシンの心血管保護を介した新しい心不全治療の開発をめざす。
平成25年度は、大動物実験プロトコールの検証枠を拡げ、心筋サンプルのDNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現の解析、さ らに発現変動した遺伝子の同定までを行った。これにより予定していた計画が変更となり、予算が未執行となった。平成26年度は、今後の推進方策にも述べるように、さらなる実験と遺伝子プロファイリング、及び機能解析を進め、予算を執行する。
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