研究課題
初年度(平成24年度)は880名の成人喘息患者を対象にクラスター解析を実施し、喘息Phenotypeを同定した。判別分析では発症年齢と一秒量が最も強い判別因子であった。さらにCCL5遺伝子及びADRB2遺伝子と、特定のPhenotypeとの遺伝的な関連を同定した。また平成24年度には、過去に報告された喘息及びCOPD感受性遺伝子の機能的な情報に基づいたネットワークの構築を試みた。喘息における11の分子ネットワークとCOPDにおける10の分子ネットワークにおいて229個の分子が両者にオーバラップしており、喘息とCOPDとの遺伝的な類似性が明らかになった。平成25年度はこれらの結果に基づき、①特定のPhenotype(発症年齢40歳以上の中高年発症喘息、及び喫煙指数≧200の重喫煙者を除いた喘息患者)に着目した網羅的な遺伝子解析、②呼吸機能関連遺伝子の喘息発症に与える遺伝的な影響、③総IgE値に対する網羅的な遺伝子解析、をそれぞれ実施した。①では喫煙の影響が少ない患者を対象としたGWASからはHAS2遺伝子(メタ解析 p = 2.02 x 10-8)、40歳以上発症の喘息を対象としたGWASからはPBMUCL2遺伝子(メタ解析 p = 4.24 x 10-7)がそれぞれ新規喘息感受性遺伝子として同定された。②では健常人を対象に呼吸機能(FEV1/FVC)に対する網羅的な遺伝子解析を実施したところ、過去のGWASによって同定された呼吸機能関連遺伝子のうち、16遺伝子において日本人においても有意な関連が認められた。これらの16遺伝子の遺伝子型情報に基づき、個々人において呼吸機能低下に対するリスク値を計算した。複数の喘息集団において、健常人と比較してこのリスク値が有意に高値を示した(メタ解析 p = 1.17 x 10-8)。③の検討ではHLA-C遺伝子が総IgE値と強く遺伝的に関連することを同定した。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度、25年度の検討から喘息分子病態の多様性の一端を明らかにすることができた。平成24年度に行った喘息Phenotypeの同定及び喘息におけるネットワークの解析については既に英語論文として報告している。さらに、平成25年度にかけて引き続き行った総IgE値に対する網羅的な遺伝子解析の結果も既に英語論文として報告している。現在、平成25年度の研究によって得られたHAS2遺伝子、PBMUCL2遺伝子さらには16の呼吸機能関連遺伝子と喘息との遺伝的関連についての結果は論文投稿中及び投稿準備中である。
平成24年度、25年度に行った種々の喘息Phenotypeに対する網羅的遺伝子解析の結果から複数の遺伝因子が喘息の特定のPhenotypeの発症や病態に影響を与えていることが明らかとなった。本年度はこれらの新規喘息感受性遺伝子の喘息表現型の多様性に与える影響をさらに検討するために、臨床的な特徴から6つのクラスターに分類された880名の喘息患者を用いて、それぞれのクラスターにおける各遺伝因子の影響を検討する。さらに、アトピー(アレルゲン特異的IgE)に関する網羅的な遺伝子解析を実施し、過去の報告のReplicationを試みる。日本人において追認された遺伝子情報(リスク値)が喘息発症やアレルギー性鼻炎発症に与える遺伝的な影響を検討する。これらの成果は難治性喘息を含む、喘息分子病態の多様性の解明に向けた、今後の研究の基礎的なデータになることが期待される。
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