研究概要 |
われわれは、半月性形成性糸球体腎炎などの活動性糸球体疾患では、ポドサイトと半月体細胞にfibroblast specific protein 1 (FSP1)の過剰発現が認められ、尿中には高度の分泌型FSPIが検出されることを報告している。さらに、1)ポドサイトにFSP1を過剰発現させた遺伝子改変マウスでは糸球体疾患が誘導されないこと、2)FSP1には強力な抗アポトーシス効果があることなどから、FSP1には腎炎惹起作用よりも、むしろ糸球体保護作用があるという作業仮説を立てた。また、FSP1は細胞外に分泌されるが、分泌型FSP1の腎炎進展における役割は不明である。 本年度は、分泌型FSP1の役割を検討するために、リコンビナントFSP1(rFSP1)を作製し、各種培養実験を実施した。培養細胞にはマウスメサンギウム細胞を用いた。マウスメサンギウム細胞にLPS(500pg/ml)を添加すると、TNF-α, IL-6, MCP-1などのToll-like receptor 4 (TLR4)を介すると考えられるサイトカイン産生が誘導された。TLR4を介することを確認するために、TLR4のアダプター蛋白であるMyD88をノックアウトしたマウス(MyD-/-)、およびTLR4のミュータントマウスであるC3H/HeJマウスから培養メサンギウム細胞を樹立した。これらのマウスから樹立したメサンギウム細胞は、LPS(500pg/ml)を添加しても、TNF-α, IL-6, MCP-1の産生誘導は、全く認められなかった。従って、メサンギウム細胞では、TLR4を介して、これらのサイトカイン産生が誘導されることが確認された。次に、マウスメサンギウム細胞にLPS(500pg/ml)を添加時に、同時にrFSP1(10μM)を添加すると、TNF-α, IL-6, MCP-1の有意な産生抑制とTNF-α, IL-6, MCP-1mRNAの有意な発現抑制が確認された。また、rFSP1の添加で、ルシフェラーゼアッセイによるNFκB活性も有意に抑制されることが確認された。さらに、rFSP1の添加後15分で、有意なリン酸化AKTの発現誘導も認められた。これらの結果から、rFSP1は新たなTLR4 inhibitorであると考えられ、特許申請を行った。現在、実験腎炎作成目的で、ポドサイト特異的FSPIトランスジェニックマウスおよびFSPIノックアウトマウスの遺伝子背景をバッククロスでBa1b/cからC57BL/6に変更中である。
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