研究課題/領域番号 |
24390220
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩田 淳 東京大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (40401038)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ポリグルタミン / ユビキチン・プロテアソーム / HDAC3 |
研究実績の概要 |
ポリグルタミンタンパク質を安定的に発現する培養細胞ラインを複数確立し,それらを用いて各種薬剤の効果を検討した結果,細胞核,細胞質においてポリグルタミンタンパク質の分解において異なる働きをする分子histone deacetylase (HDAC) 3を同定した.HDAC3の特異的阻害薬を共同研究者より入手し,HDAC3の特異的発現knock-downの結果と併せて,HDAC3は細胞質においてはポリグルタミンタンパク質の分解には全く影響せず,細胞核においては分解促進の機能があることを同定した.同結果はPLOS One(Mano et al, 2014)に発表した.すなわち,HDAC3の特異的阻害剤を用いてポリグルタミン凝集タンパク質の分解を検討したところ,HDAC3阻害薬は細胞質のポリグルタミン凝集タンパク質の分解を促進したにもかかわらず,細胞核のポリグルタミン凝集タンパク質の分解は阻害した.この結果は我々が想定していたものと全く異なる結果であった.想定していた結果は,細胞核及び細胞質でのポリグルタミン凝集タンパク質の分解は同等に行われているはずであるというものであったためである.HDAC3の強制発現は細胞核のポリグルタミン凝集タンパク質の分解促進に働くため,ポリグルタミン病の治療のためにはHDAC3の機能強化が重要であるという結論が得られた.この結果は,ポリグルタミン病の治療という観点以上に,細胞質と細胞核におけるタンパク質分解機構が異なるという生物学的意義を有している.治療方法の探索のためには今後はHDAC3の機能強化を行う方法を検討することとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリグルタミン病の新規治療ターゲットHDAC3の存在を明らかにした点が,一つの目標として達成したと考える.また,ポリグルタミン凝集タンパク質の細胞核内における分解機構をユビキチン・プロテアソーム系の促進,及び阻害という観点で明らかにしたことは,目標として適切であったと考える.
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今後の研究の推進方策 |
HDAC3が細胞質,細胞核においてポリグルタミン凝集タンパク質の分解について正反対の働きを持つことを突き止めた.この結果は,細胞質と細胞核でのユビキチン・プロテアソーム系が異なる制御を受けていることを示唆している.これは今まで誰も想像し得なかった事実であり,ポリグルタミン病の病態研究の範疇を超えて,分子生物学的探索を行っていくだけの新しい意義を有していると考えられる結果であった.のこの1年間において,細胞質と細胞核でのユビキチン・プロテアソーム系の制御系統の違いを明らかにすべく実験を行っていくこととしている.ポリグルタミン病の治療という観点からは,今後はHDAC3の機能強化を行う方法を検討することとした.
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