研究課題
これまでに我々はPGRN欠損マウスを用いた検討から、PGRN欠損により様々な表現型を呈することを見出してきた。その中で、PGRNと動脈硬化モデルマウスであるアポE欠損マウスとのダブルノックアウト(DKO) マウスを作製してアポE-KOマウスと動脈硬化の程度を比較した。結果としては明らかにDKOマウスの方が、動脈硬化が促進していた。その機序として、DKOマウスの方が、全身の炎症促進、HDL機能異常の可能性、マクロファージの脂質取り込みの促進などが考えられ、これらの成果を論文化した(Cardiovasc Res. 2013 100:125-133)。また、PGRNと急性冠症候群(ACS)との関連を見るスタディについてはすでに登録が終了して、解析を行っている。これまでの検討で血栓吸引したサンプルの免疫染色でPGRNはプラーク部位で認められることを見出している。また、急性期には血中PGRN濃度は低値であり、また冠動脈病変部位近くからの採血でのPGRN濃度の方が末梢血でのPGRN濃度と比較して低値であったことも見出した。現在、その意義についてin vitroの系で検討しているが、PGRNがプラーク安定化に関与している可能性があるものと考えている。PGRNがTNF-αとTNF受容体との結合を競合阻害して、TNF受容体からのシグナルを抑制することが報告されているが、我々は、TNF受容体1,2 DKOマウスのマクロファージにPGRNで刺激した時にaktのリン酸化がされたことからTNF受容体以外のPGRN受容体の存在の可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
上述したようにPGRNと動脈硬化との関連についてはPGRN欠損マウス、PGRN/ApoE DKOマウスを用いた検討によりPGRN欠損で動脈硬化が非常に促進することを見出した。PGRNは炎症と強くリンクする分子であるが、PGRN欠損により、全身の炎症反応増強を来たすと共に、血管内皮障害、HDL機能異常、マクロファージの脂質取り込み促進などが動脈硬化促進に関与していることを示し、論文化したことは予定通りである。PGRNと急性冠症候群(ACS)との関連を見るスタディについては、上述の通り、サンプル回収は終了しており、得られた知見からACSにおけるPGRNの意義についてin vitroの実験に移行しており、論文化に向けて準備する予定であり、予定通りといえる。上述の通りTNF受容体1,2 DKOマウスのマクロファージを用いての検討からTNF受容体以外からのシグナルの存在が強く考えられることを示した。前頭側頭変性症(FTD)患者におけるPGRN変異が疑われるPGRN異常低値症例は現在のところまだ見いだせておらず、登録機関延長中である。PGRN発現アデノウィルスを用いた検討は、上述の通り発現確認が出来ていないのが現状である。PGRNが全身炎症性疾患や粥状動脈硬化に対する新規治療標的となるか否かを解明することを本研究は目的としており、その意味では、全体として進行状況はおおむね順調といえる。
PGRNと動脈硬化との関連については論文化されたが、PGRNは全身にユビキタスに発現している。我々は、炎症や何らかのストレスによりマクロファージ由来のPGRNが動脈硬化に大きな影響を与えている可能性が高いと考え、マクロファージ特異的PGRN欠損マウスの解析を新たに行う予定である。FTD患者における表現型検討は予想外に変異が疑われる症例が現在のところ見出していないが、登録機関を延長して検討していく。PGRN発現アデノウィルスについては今後も検討を行っていくが、リバースの方法についてはリコンビナントの投与などの方法も視野に入れ、検討を行う予定である。
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Cardiovascular Research
巻: 100 ページ: 125-133
10.1093/cvr/cvt178.