研究課題
TET2は、血液がんで最も高頻度に変異が認められる遺伝子の一つであり、TET2遺伝子にコードされる蛋白は、メチル化シトシン(mC)をヒドロキシメチル化シトシン(hmC)に変換する酵素である。TET2の機能を明らかにするために、TET2に結合する蛋白質を探索した。マス・スペクトロメトリー法でスクリーニングされた蛋白質の中で、O-linked N-acetylglucosamine transferase (OGT)がTET2に強く結合すること、特に、OGTのアミノ末端が、TET2の酵素触媒領域を含むカルキシル末端と結合することを明らかにした。OGTはセリン/スレオニン残基にO-linked N-acetylglucosamine (O-GlcNAc)を付加する酵素で、細胞への強制発現によってTET2へのO-GlcNAc付加が増加することが示された。しかしながら、OGTを強制発現した細胞におけるゲノム中のhmC量に変化はなく、OGTが結合することでTET2の機能に影響を及ぼすか否かは不明であった。一方、TET2遺伝子ノックダウン細胞では、O-GlcNAc付加蛋白質全体量が減少していた。この結果から、TET2はOGTに結合することによりOGTの機能を高めていることが推察された。一方、TET2遺伝子ノックダウンマウスでは、CD4陽性T細胞においてBcl6遺伝子のイントロンに存在するサイレンサー領域のメチル化が更新し、またBcl6の発現が亢進していた。Bcl6は濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞分化のマスター転写因子であるが、このマウスは40週齢以降、脾臓においてTfh細胞が増生し、さらに60週齢以降Tfh細胞の形質を示すT細胞リンパ腫を発症した。ヒトではTfh細胞腫瘍として血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)が知られる。AITLサンプルのゲノム解析で、一次異常としてTET2遺伝子変異を83%の頻度で、二次異常としてRHOA遺伝子変異を71%の頻度で認め、TET2遺伝子変異によるエピジェネティック異常を発端とするT細胞リンパ腫の発症過程の一端が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
1)TET2複合体による脱メチル化解析、2)TET2遺伝子改変マウスのフェノタイプ解析、3)T細胞性リンパ腫発症関連遺伝子の同定、の3項目を目指して研究を行った。1)については複合体の一端としてOGTを同定した。脱メチル化の機序を解明するにはいたらなかったが、以外にもTET2がOGTの機能を制御することを示唆する結果を得た。2)ではフェノタイプ解析だけでなく、エピジェネティック制御異常によって当該のフェノタイプが出現することまで突き止めた。3)では、血管免役芽球性リンパ腫において、一次異常としてTET2遺伝子変異を、二次異常としてRHOA遺伝子変異を高頻度に同定した。以上から概ね順調に進展していると言える。
TET2変異によるエピゲノム異常とRHOA変異による低分子GTPase蛋白機能異常の組み合わせによって、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫の動物モデルを作製する。また、エピジェネティック制御異常の中でも、メチル化シトシン(mC)からヒドロキシメチル化シトシン(hmC)への変換障害が、がん前駆状態を形成していることが想定される。この際、どのような遺伝子が標的になっているかを、TET2遺伝子改変マウスや、hmC変換障害を来している細胞を用いて解析する。
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Nature Genetics
巻: 46 ページ: 171-175
doi:10.1038/ng.2872
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