研究課題
単球・マクロファージ(Mo/Mφ)や樹状細胞(DC)はいずれも、単核貪食細胞群に共通の前駆細胞であるMφ-DC precursors (MDP)から分化する。本課題では、転写因子IRF8の機能解析を通じて単核貪食細胞系の初期分化機構を理解する。なお,IRF8欠損マウスは慢性骨髄性白血病(CML)様の病態を呈し、ヒトCMLではIRF8の発現が消失していることから、本研究は、ひいてはCML病態の新しい理解や治療法開発に繋がると期待される。H25年度までの成果のうち主なものを記す。(1)IRF8はCMLにおいてBCR-ABLに打ち勝ってDC分化を救済する:CMLモデルマウスを用いて、BCR-ABLがIRF8発現抑制によってDC分化を阻害していること、その分化阻害はIRF8の遺伝子導入によって回復すること、さらには分化が回復したDCは、通常のDCにくらべ細胞障害性T細胞の誘導能が高いことなどを明らかにした。これらはIRF8発現の回復がCMLの新規治療法の鍵となる可能性を示すものであり、Cancer Research誌に発表した。(2)IRF8はC/EBPαの活性阻害によって単核貪食細胞前駆細胞における好中球分化を抑制する:まずIRF8の発現がMDPにおいて急激に上昇することを見出した。次に、MDPはIRF8が欠損するとDCやMo/Mφに充分に分化できず蓄積するのみならず、正常の場合は分化できない好中球を大量に産生することがわかった。さらにマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイリングとバイオインフォマティクス解析を行ったところ、好中球分化を促進する転写因子C/EBPαの機能亢進が推測された。複数の手法によってIRF8はC/EBPαと直接結合することでC/EBPαのDNAへの結合を阻害することを実証した。(3)その他、本研究課題は新学術研究ゲノム支援に採択され、MDPなどの単核貪食細胞前駆細胞群について、ごく微量の細胞数からChIP-seqを行なう手法を確立し、それらにおけるenhancer landscapeの概要を明らかにしつつある。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画であった(1)IRF8はどの系譜,どの段階の造血前駆細胞で発現するのかの解析(2)IRF8欠損マウスではMDPなどの造血前駆細胞の割合や数にどのような変化があるかの解析(3)IRF8はMDPの分化能制御にどのような役割を持つのかの解析(4)造血前駆細胞におけるIRF8の標的遺伝子群の同定、のいずれもが順調に進んだ。さらにはCML病態と治療におけるIRF8の役割についても明らかにすることができた。
当初の計画通り(1)H25年度に引き続いての造血前駆細胞におけるIRF8の標的遺伝子群の同定(2)MDPにおけるIRF8の作用機序として,好中球分化を司る転写因子C/EBPα活性の抑制が関わるかのさらなる解析を行ない、論文化を目指す。(3)さらに、これまでに計画を前倒しして得られている知見と新学術研究ゲノム支援によって得られた貴重なデータを基に、当初の計画である野生型並びにIRF8欠損マウスのMDPのみならず多種類の前駆細胞におけるクロマチン制御も含めた全ゲノム規模の解析により、単核貪食細胞群の分化についての包括的理解を目指す。
H25年度は、研究が大変順調に進んだため、条件検討のための実験が比較的少なく済んだ。また、他のプロジェクトでも共通して使用する試薬を一度に発注して値引きを得るなど、研究費の有効活用にも努めた。一方、研究が予定よりも順調に進んだことや新学術研究ゲノム支援によってH26年度に計画が可能となった多種類の前駆細胞におけるゲノム規模での解析は当初予定よりもやや多く経費のかかる解析を含むため、次年度使用額を少しでも多くする必要もあった。これまでの研究が計画が予定よりも順調に進んだことからH26年度に計画が可能となったゲノム規模の解析において、次年度使用額を合わせることによって、多種類の前駆細胞の純化のための抗体・磁気ビーズ類、マイクロアレイ消耗品や次世代シーケンサー消耗品を購入でき、それによって、質の高い成果を得るために非常に重要な解析を行なうことができる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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