研究課題
1.日本人急性壊死性脳症(ANE)32症例のゲノムDNAを対象として、サイトカイン関連遺伝子多型の頻度を調べ、対照(日本人の健康成人)との間で比較した。その結果、IL-6とIL-10遺伝子の特定の多型が患者群で有意に高頻度であることが判明した。次にこれらの遺伝子多型の機能解析として、リンパ芽球をホルボールエステルで刺激した際のサイトカイン産生能をリスク遺伝子型と野生型との間で比較した。その結果、IL-10のリスク遺伝子型を有するリンパ芽球ではIL-10産生量が有意に少ないことが示された。これによりANEの発症にはサイトカイン産生のアンバランスを生じやすい遺伝的素因が関与することが明らかとなった。2. 日本では孤発性、非再発性のANEが大多数であるが、欧米では家族性、再発性のANE亜型(ANE1)が多く見られる。ANE1の原因遺伝子として近年、RANBP2が同定された。今年度の研究で、日本人ANE32症例を対象としてRANBP2遺伝子解析を施行した。全エクソンを解析した結果、1症例のみではあるが、エクソン20に欠失を認めた。日本人ANEのごく少数がRANBP2遺伝子変異に起因する可能性が示された。3. 小児で片側けいれんに引き続き片麻痺を生じる病態はHHE症候群と総称される。HHE症例の多くは感染症を契機に発症し、けいれん重積型急性脳症(AESD)の一部を構成する。今年度はHHE/AESDの14症例を対象として、既知のAESD関連遺伝子について解析した。その結果、CPT2、ADORA2A、IL1Bなどの遺伝子多型頻度についてHHEと対照の間に有意差があり、SCN1A、SCN2A遺伝子変異が数%に見られるなど、全体としてHHEはAESDと同様の傾向を示した。これにより、臨床的のみならず遺伝学的にもHHEとAESDの関連性が強いことが判明した
2: おおむね順調に進展している
MERSについては、DNA検体数の不足によりゲノムワイド解析が行えなかった。AESDについては、検体数はじゅうぶん集められたが、候補遺伝子解析で多くの成果が得られたので、本研究期間中にはゲノムワイド解析に敢えて移行しなかった。
本研究期間中にANEやAESD発症の遺伝的リスクとして同定された多くの遺伝子多型について、機能解析をさらに進める。HHE症候群についてはAESDにオーバーラップする群としない群に分けて、来年度からエクソーム解析を開始し、それぞれの群における遺伝的リスクを解明する。
ANEとAESDに関連する遺伝子の機能解析が一部、次年度に持ち越された。またHHE症候群の解析を次年度早々から開始することとなった。
ANEやAESD関連遺伝子の機能解析、およびHHE症候群に関するエクソーム解析で使用する試薬、器具の購入に充てる。
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