研究課題/領域番号 |
24390259
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
張田 豊 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (10451866)
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研究分担者 |
五十嵐 隆 独立行政法人国立成育医療研究センター, その他部局等, その他 (70151256)
三浦 健一郎 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70408483)
服部 成介 北里大学, 薬学部, 教授 (50143508)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 巣状糸球体硬化症 / ネフローゼ症候群 |
研究概要 |
(1) 巣状糸球体硬化症および特発性ネフローゼ症候群患者血清による糸球体上皮細胞障害メカニズムの網羅的解析 患者血液中の因子が糸球体上皮細胞に与える影響、すなわちどのような細胞内シグナル伝達を介して細胞骨格の変化を来すのかについて解析を行っている。糸球体上皮細胞の形態変化をきたすとされるsuPAR(soluble urokinase receptor)が巣状糸球体硬化症患者で上昇しているという報告があり、その検証を行ったところ、血中suPAR濃度は腎機能と負の相関を示すが、蛋白尿やネフローゼの再発との関連がみられいというデータが得られた(Harita Y, et al. Pediatric Nephrology in press)。 (2) 薬剤による糸球体上皮細胞障害回避メカニズムの解明 液性因子による糸球体上皮細胞傷害に対する既知の蛋白尿治療薬の効果について単離糸球体および培養糸球体上皮細胞を利用して検討している。スリット膜蛋白質のNephrinの細胞膜への膜輸送とその後の細胞内への取り込みのサイクル(ターンオーバーサイクル)を検討し、その速度がきわめて早い事、またaPKC阻害薬がNephrinのエクソサイトーシスを抑制する事で膜発現を減少させる事を見いだした(Sato D, Hirose T, Harita Y, et al. The Journal of Biochemistry. in press)。 (3) 生体内における循環因子の糸球体上皮細胞傷害機序の解明 腎移植に至った巣状糸球体硬化症の症例の移植時、移植直後およびその後の経過中で、蛋白尿と関連が指摘されている分子群の挙動を解析した。移植直後に再発した巣状糸球体硬化症での上皮細胞の変化を見いだし現在投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
巣状糸球体硬化症を来す血清因子の解析については当初の予定通りsuPARについての解析を終了し、その他の因子の同定作業に進んでいる。薬剤による糸球体上皮細胞傷害回避メカニズムについてはスリット膜の解析を通してその形成維持にaPKCが必要であることを見いだし、報告することができた。 また生体内における循環因子の糸球体上皮細胞傷害機序の解明 として、生体内で起こっている微細な変化を共焦点顕微鏡で解析し、これまで考えられていなかった移植後超早期の糸球体上皮細胞の変化をとらえることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 巣状糸球体硬化症および特発性ネフローゼ症候群患者血清による糸球体上皮細胞障害メカニズムの網羅的解析 :培養細胞を用いたNephrinのターンオーバーサイクルの定量系を用いて各種シグナル伝達修飾薬がどのような影響を及ぼすのかについて解析を行っている。現在suPAR以外の因子について解析を進めている。手法としては、蛋白の濾過バリアーとしてきわめて重要であり、細胞骨格の調節機能を有する糸球体上皮細胞スリット膜に何らかの血中成分が結合し作用するという仮説を立て、スリット膜主要構成因子であるNephrinに結合する健常人およびネフローゼ患者血中蛋白の同定をSILAC法を用いて行っており、現在結果を解析中である。また培養細胞および単離糸球体への血清添加の影響についてゲノムおよびプロテオームの網羅的な解析を行う予定である。 (2) 薬剤による糸球体上皮細胞障害回避メカニズムの解明:液性因子による糸球体上皮細胞傷害に対する既知の蛋白尿治療薬の効果についてスリット膜ターンオーバーの系を応用して検討する。具体的には患者血漿が惹起する糸球体上皮細胞の蛋白の発現変化や形態変化に対し、ステロイド、シクロスポリン、ミゾリビン、リツキシマブなどの免疫抑制薬の投与が影響を及ぼすかどうかについて検討する。 (3) 生体内における循環因子の糸球体上皮細胞傷害機序の解明:これまで明らかにした患者体内で起こっているスリット膜分子の細胞内局在変化をin vitroの系で再現できるかどうかを試みる。具体的には単離糸球体に患者血清を添加した際にスリット膜の細胞内局在変化が起こるかどうかをコンフォーカル顕微鏡を用いて解析し、変化が見られる場合には(2)などで得られた情報を元に各種薬剤、阻害薬を用いてそのメカニズムを解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「巣状糸球体硬化症および特発性ネフローゼ症候群患者血清による糸球体上皮細胞障害メカニズムの網羅的解析」については本年度サンプル調整法の開発まで進行している。実際の解析については次年度に予定している。最も資金が必要であると予想されるこのプロジェクトについては次年度に持ち越した資金を使用する予定である。 H26年度においてすべてのプロジェクトを完了させるために、繰り越した資金を主に物品費などに当てる方針としている。また実験の遂行のための技術補佐員雇用のための人件費としても使用する予定である。
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