研究課題
不明熱・周期性発熱の原因として自己炎症性疾患が発見され、一部の自己炎症性疾患の炎症機転の解明が進んだが、疾患特異的な病態は未解明である。平成25年度の本研究の成果として、1)TRAPS様不明熱症例における体細胞モザイクの有無、2)疾患特異的iPS 細胞の軟骨分化によるCINCA症候群の骨幹端過形成の機序解明、3)単細胞ELISAによる単細胞のIL-1β産生の測定系を構築し、CINCA症候群モザイク症例のIL-1β産生能の検討、をおこなった。1)TNFRSF1Aの機能獲得型変異によりTRAPSを発症する。しかし、臨床的にはTRAPSを疑うがSanger法での遺伝子解析では、変異を同定出来ない症例が知られていた。TRAPS様症例を集積し(約100例)、CINCA症候群で観察された体細胞モザイクで発症している可能性について、次世代シークエンサーにてTNFRSF1A体細胞モザイクの有無を検討した。結果は、TNFRSF1A体細胞モザイクは存在しなかった。本研究の検討では、TRAPS様症例においてTNFRSF1A体細胞モザイクで発症している症例を確認できなかった。2)NLRP3体細胞モザイクで発症しているCINCA症候群患者より、遺伝的背景が同一であるNLRP3変異陽性iPS細胞、NLRP3変異陰性iPS細胞を樹立した。梅田らが開発した軟骨分化法を用いて、これらのiPS細胞を軟骨分化させた。結果、NLRP3変異陽性iPS細胞由来軟骨はNLRP3変異陰性iPS細胞由来軟骨より大きく、患者病態の一部を再現することに成功した。3)CINCA症候群NLRP3体細胞モザイク症例、ヘテロ症例、正常コントロールで末梢血単球からのIL-1β産生能を単細胞ELISAで検討した。正常コントロールにくらべ、IL-1β産生細胞数は、モザイク症例、ヘテロ症例で増加をみとめた。
2: おおむね順調に進展している
原因不明発熱・周期熱症例の原因検索として、CINCA症候群の次に、TRAPSにおいても潜在性体細胞モザイクを検討することができた。体細胞モザイクは現在のところCINCA症候群に特異的な現象であることが推定された。適切な動物モデルがなく、また倫理的に入手が困難な軟骨細胞における病態解析はこれまで困難であった。今回、iPS細胞からの軟骨細胞への分化系を確立して、CINCA症候群における骨幹端過形成の病態を再現できた。このin vitroの系を用いて解析を進めることにより機序解明が期待できる。さらに、分泌機構が解明されていないIL-1βの単細胞ELISAの系を確立し、CINCA症候群(モザイク、ヘテロ)において正常コントロールよりも単球からのIL-1β産生が亢進していることを確認できた。続いて、単細胞の遺伝子型を決定することにより、ヘテロ症例と同様の炎症をおこす事が知られているモザイク症例におけるNLEP3正常単球、NLRP3変異単球のIL-1β産生状態の解析が可能となる。
原因不明発熱・周期熱症例のなかで、既知変異陰性症例を父・母を含むトリオ解析でエクソーム解析をおこなう。現在解析を進めているが、原因遺伝子の同定までいたっていない。またCINCA症候群の変異陰性例は3症例となったが、まだ原因遺伝子同定にいたっていない。さらなら症例の追加(国際共同研究を含む)に加え、昨年度に公開された日本人1000例のエキソームデータ(HGVD)を用いてさらに絞り込みを行う。CINCA症候群の骨幹端過形成の病態再現に成功したので、さらにその機序解明を行う。まず発現解析により軟骨特異的な遺伝子発現を確認する。さらにそのプロファイルを検討することにより、変異NLRP3特異的なパスウエイの同定を試みる。IL-1βの単細胞ELISAに、単細胞における遺伝子型決定を組み合わせる。それにより単細胞におけるNLRP3変異の有無、IL-1β産生能を検討し、体細胞モザイクCINCA症候群症例の全身性炎症がヘテロCINCA症候群症例と同様である原因・機序解明を行う。
研究の進捗は予定通りであるが、予定より少ない物品で研究成果が上がったため次年度使用額が生じた。研究計画の中で、サンプル数の増加が望ましい研究において、H25年度残額分を使用し、研究成果の充実を図る。
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Ann Rheum Dis
巻: 72 ページ: 1-8
10.1136/annrheumdis-2013-204361
Clin Exp Rheumatol
巻: 31 ページ: 302-309