研究実績の概要 |
浜松市の妊婦の1日の総エネルギー摂取量の調査を行ったところ、妊婦の平均摂取エネルギーは妊娠期間を通じて1日1,600キロカロリーを僅かに下回る値であった(Kubota K 他, J Obstet Gynaecol Res 2013)。厚生労働省では通常の活動レベルの妊婦に対して、妊娠中期及び後期に2,300キロカロリーと2,520キロカロリーのエネルギー摂取を推奨していることから、ぞれぞれの時期に約30%および37%エネルギー摂取が不足し、看過しがたい数の胎児が低栄養環境に曝されている可能性が明らかとなった。厚生労働省によると、我が国の20歳代非妊女性の平均摂取エネルギーは1日1,684キロカロリーであり(日本人の食事摂取基準)、若年女性は妊娠前の食習慣を妊娠後も継続している可能性が考えられる。 胎生期低栄養マウスモデルを用いて、胎生期低栄養環境に曝された場合、授乳期におけるcatch upの比率と、成獣期の脂肪組織におけるマクロファージの浸潤数、小型の脂肪細胞の比率など脂肪細胞のリモデリングが正の相関を示す事を見いだした(Kohmura 他, Reprod Sci 2013)。さらに、授乳期におけるcatch upの比率は脂肪細胞の重量、随時血糖値や総コレステロール値とも正の相関を認めた。興味深いことに、正常対照群ではこのような変化を認めなかった。以上のような知見から、胎生期の低栄養環境に引き続くcatch upは、成長後において脂肪組織のリモデリングを助長し、肥満の増悪のみならず糖代謝や脂質代謝の異常の発症に関与しているという’Catch up Related Adipose Tissue Remodeling 仮説’を提唱した(Hormone Frontier in Gynecology, 2014)。
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