研究課題
基盤研究(B)
標準的な薬物療法に抵抗する難治性の抑うつ状態は、気分障害、脳器質性障害その他の精神疾患でしばしば認められ、患者の日常活動を著しく障害するだけでなく、自殺行動に結びつくことも多いことから、新しい治療法の開発が医学的・社会的急務となっている。本研究では、NMDA型グルタミン酸受容体遮断薬が、難治性抑うつ状態に対して即効的で持続する効果を発揮することや、抑うつ状態の動物モデルを改善することが報告されている点に注目し、NMDA受容体機能を、本受容体の様々な調節部位やそれ以外の分子細胞システムを介して抑制することによって、難治性抑うつ状態を改善する、新規治療法を開発するための基礎的・臨床的研究を行う。今年度は、新規治療法の手がかりを得る目的で、NMDA受容体機能促進作用をもつ内在性物質のD-セリンが結合する本受容体グリシン調節部位の選択的拮抗薬5,7-dichrolokynurenate(DCK)を、ラットの脳室内に注入し、脳内各部位で、抑うつ状態と関係の深いdopamine(DA)およびserotonin(5-HT)の代謝や、行動量への影響を観察した。DCK投与により、内側前頭葉皮質のDA代謝回転の指標(主要代謝産物3,4-dihydroxyphenylacetic acidのDAに対する比)が有意に軽度な上昇を示し、自動測定装置のケージ内での行動量が増加することがわかった。内側前頭葉皮質の5-HT代謝、線条体と、中脳辺縁系DAニューロンの投射領域(側坐核・嗅結節・中隔を含む)におけるDAおよび5-HT代謝の指標には有意な変化は認められなかった。これらの影響は、グリシン調節部位の選択的拮抗薬が抗うつ効果をもつ可能性が示唆された。また、D-セリンの取り込みや放出を修飾する分子の気分障害患者死後脳における発現を検討した(特許に関連する可能性があり具体的情報は公表しない)。
2: おおむね順調に進展している
NMDA受容体グリシン調節部位を選択的遮断する薬物に、前頭葉ドーパミン伝達の促進や行動増加等の抗うつ作用の指標を増強させる効果や、死後脳のD-セリン関連分子の変化を見出したことは、当初計画より進展したと言えるが、臨床的研究がやや遅れている。
イフェンプロディールを用いたオープンラベル臨床試験への患者エントリーを進める。基礎的研究では、NMDA受容体-D-セリンシステムについて、調節機構・病態・抗うつ効果に繋がる抑制法等の検討をさらに発展させる。
脳画像解析のためのソフトウェアを検討し、本研究の多様な用途に適したものを選定したが、決定が遅れたため、平成24年度内の納品が難しくなり、平成25年度に当該予算を持ち越して、早期に購入することとした。
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