研究概要 |
陽子線治療と同時に中性子捕捉療法(BNσr)を行うことのできる次世代型治療装置を開発中であり,本治療により線量分布の良い陽子線により腫瘍の物理学的ターゲッティングが可能となり,がん細胞致死効果の高いBNCTにより放射線抵抗性,浸潤性,多発性の克服といった腫瘍の生物学的ターゲッティングが可能となる.本研究では,高エネルギー陽子ビームを用いた次世代型粒子線治療のための基盤研究として,以下の4つのテーマを実行し,基礎と臨床をつなぐトランスレーショナルリサーチを行った.1.陽子線およびBNCTによる高次の抗腫癌効果発現メカニズムの解明については,陽子線のブラッグピーク周辺部での酸素効果を評価し,ピーク終末部で生物学的効果がやや高くなる傾向を見いだした.陽子線誘発アポトーシスについては.マウスの小腸腺窩細胞と精巣細胞を指標に治療線量および低線量の全身被曝の影響を検討した.低線量であっても有意にアポトーシスが誘導されるのを観察した.II.ホウ素化合物の腫瘍内輸送法の開発と細胞内分布の解明については,平成24年度は,準備不十分で研究が遅れ25年度に実施をする予定とした.III.陽子線とBNCTの最適な併用法の探索に関する検討については,おもに陽子線治療に化学療法を併用した効果を,食道癌,進行肺癌,胆管細胞癌を対照に検討を行った,進行食道癌に対する化学療法と併用した陽子線治療は,治療効果が良好であるだけでなく,心や肺毒性が低減可能であり,新しい治療法として確立できる可能性が示唆された.IV.新しい臨床試験の立案と実行についえは,小児腫瘍に対する陽子線治療の安全性,有効性評価を約30例に行い長期的な経過観察を開始している.進行非小細胞肺癌に対する化学療法併用陽子線療法のプロトコールについては試験を終了し,X線治療との線量評価の比較を行うとともに,試験結果を国際誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
陽子線治療に関する基盤研究(物理研究,生物研究)は,順調に進んでおり多くの結果を得ることができた.また臨床試験または先進医療により得られた肝細胞癌,肺癌,頭頸部腫瘍,脳腫瘍,小児腫瘍などについての結果についても,英文論文として掲載することができた.問題点としては,BNCT関連の機器整備が遅れ,研究が十分に行えていない現状がある.
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今後の研究の推進方策 |
BNCT研究の推進については,25年度から専門の研究者を雇用して,基礎研究を充実させるとともに,地域のがん専門医の啓蒙活動を行いおもだった臓器の腫瘍別専門部会を設立し,臨床研究実行を確実なものとする.
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は,物品費として計上した金額を下回る使用であったが,この理由はBNCTに関わる装置整備の遅れにより,消耗品の支出が抑えられたためであり,25年度はこの領域の研究を加速することにより,25年度経費と合わせて有効な利用を図る.
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