研究課題/領域番号 |
24390289
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮川 清 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40200133)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 放射線治療生物学 / エピジェネティクス |
研究概要 |
減数分裂特異的に発現してシナプトネマ複合体を構成する分子であるSYCE1は、体細胞においてはエピジェネティックな機序によって一部のがんで発現し、放射線抵抗性やシスプラチン抵抗性を誘導する。この分子機序を明らかにするために、体細胞でSYCE1が発現した場合のDNA損傷応答機構の変化を、ヒト正常上皮細胞での外来性発現実験とがん細胞におけるノックアウト実験の2つの細胞実験系によって検討した結果、次の2つの点が明らかになった。第一には、SYCE1の発現によって、DNA二本鎖切断に対する相同組換え修復の中心的な分子であるRAD51の、放射線照射後の核内ファーカス形成が促進されることである。この結果は、SYCE1の発現が、体細胞において存在する相同組換え修復の機能を亢進させることを示唆する。第二には、SYCE1の発現によって、DNA損傷応答の早期において情報伝達系を活性化する中心的分子であるATMのリン酸化が増加することである。この結果は、SYCE1の発現が、ATMを介するDNA損傷応答経路を活性化することを示唆するものである。さらには、SYCE1発現細胞をATM阻害剤で処理し、放射線照射を行い、細胞生存率を測定したところ、SYCE1非発現細胞と比べて亢進していた細胞生存率が低下した。以上の結果より、SYCE1が体細胞で発現した場合には、ATMを介するDNA損傷応答経路の機能が亢進することによって、放射線抵抗性が誘導されるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エピジェネティクス依存性の機序によって体細胞では一部のがんで発現する分子としてSYCE1を同定し、その発現によってDNA損傷応答において少なくとも2つの分子の機能が変化し放射線抵抗性が誘導されることを確認することができたために、おおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
SYCE1の体細胞における発現による放射線抵抗性誘導の機序として、DNA損傷応答の一部の経路が活性化されることが明らかとなったために、この経路を構成する複雑な情報伝達経路において、SYCE1発現によって影響を受ける部分と受けない部分とを明確にすることによって、より詳細な放射線抵抗性誘導の機序を理解する。
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