これまでこの研究は、bevacizumab投与による乳癌細胞側のmicroRNAの変化を明らかにしようとしてきたが、再現性のある細胞のphenotypeの変化やmicroRNA発現変化を捉えることができなかった。そこで、より根本的にVEGFをknockoutしたMDA-MB-231細胞をCRSPR-Cas9システムで作成した。すると、231-VEGF-KO細胞は野生型231細胞(231-WT)に比べて、1)紡錘形からより円形に近い細胞形状に変化(細胞周囲長の減少、p<0.05)、2)細胞migration能の減少(p<0.05)の変化を認めた。この変化はbevacizumab投与では得られなかったphenotypeであった。 bevacizumabはVEGFのVEGFR結合ドメインを阻害する抗体として作成されているが、NRP1/2結合ドメインはVEGFR結合ドメインとは異なるため、231細胞はVEGF刺激をNRP1/2由来で受けていると考えた。そこで分泌されたVEGFをトラップするsoluble NRP1を発現する231細胞を作成すると、231-VEGF-KO細胞と同様のphenotypeが認められた。 ここで、この231-WT細胞、231-VEGF-KO細胞、231-sNRP1細胞、231-bevacizumab暴露細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで解析し、ARHGAP17が231-VEGF-KO細胞、231-sNRP1細胞で発現亢進していることを認め、また231-VEGF-KO細胞のARHGAP17をsiRNAでノックダウンさせると細胞の形態と細胞運動能がrecoverされるデータを得ている。 総合すると、231細胞ではVEGFからNRP1/2を通じてシグナルを得て、ARHGAP17の発現抑制を介して紡錘形の細胞形態と高度の細胞migration能を得ていることが判明した。
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