研究課題/領域番号 |
24390306
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
岡村 春樹 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (60111043)
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研究分担者 |
笹子 三津留 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (40143490)
菊池 正二郎 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (70381960)
前山 義博 兵庫医科大学, 医学部, 非常勤講師 (80614031)
田中 義正 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (90280700)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん免疫治療 / 免疫チェックポイント阻害薬 / CTLA4 / PD-L1 / IL-18 / NK細胞 / CD8陽性T細胞 / Treg |
研究実績の概要 |
本研究はがんの免疫治療に対するIL-18 の応用の可能性を探ることと、その効果の裏付けとなるIL-18 の作用機序を解明することである。IL-18はがん細胞を傷害するエフェクター細胞であるCD8陽性T, NK, γδT細胞の生存、増殖を著しく増強することからがん免疫チェックポイント阻害薬(以後、阻害薬と省略)と併用することによって抗がん作用を高めることが予想された。 実験ではマウス大腸がん細胞CT26, 黒色腫細胞B16, 乳がん細胞4T1などによるがん腹膜播種モデル、肺転移モデルなどを作成し、抗CTLA4抗体、抗PD-L1抗体などの阻害薬とIL-18とを、さまざまな濃度、タイミング、組み合わせで投与し、腫瘤の大きさ、腹水の貯留、肺における結節の数、生存などに与える効果について観察した。一方、腹腔浸出細胞の数、種類、機能などについて解析を行い、抗がん作用に関与する細胞について検討を行った。 その結果、IL-18は阻害薬の効果を著しく高め、がん腹膜播種モデルではマウスの生存を顕著に延長させた。B16黒色腫細胞を用いた肺転移モデルにおいても、肺における結節の数を強く抑制した。IL-18の作用機序については不明のことが多いが、腹膜播種モデルにおいて腹腔浸出細胞について解析を行ったところ、IL-18との併用によってCD8陽性T細胞、NK細胞、γδT細胞などのリンパ球が著しく増加していた。また逆にTregは減少していた。 このようにIL-18は免疫チェックポイント阻害薬との併用によって著しくその治療効果を高めるとともにその投与量を少なくする効果を持つことがわかった。その機序としてはIL-18がエフェクター細胞を著しく増強する働きを持ち、Tregを抑制すること、副作用を軽減することなどが考えられた。これらの結果はがんの免疫治療におけるIL-18 の有用性を示しており、Clin Cancer Res.に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年開発された免疫チェックポイント阻害薬が黒色腫、肺がんなどのがん免疫治療に用いられるようになり、大きな期待が寄せられている。この治療薬はがん治療における大きなブレークスルーとなっているが、その効果は限定的であること、高率に副作用としての有害事象が現れること、極めて高価であることなどから改良の余地が多く残されている。この研究ではIL-18との併用によって免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めその投与量を減らし、有害事象を軽減させることが強く示唆された。またIL-18の作用機序として、innate immunity を高めて、がん細胞を障害するエフェクター細胞の数を著しく増やすこと、Tregを抑制することなどが示された。これらの結果は免疫チェックポイント阻害薬によるがんの免疫治療を改良するために示唆を与えるもので研究は前進しているといえる。 これまでにin vitro の研究から活性化の刺激を受けたCD8陽性T, γδT, NK細胞などの増殖をIL-18 が強く促進することがわかっていたが、今回の様々ながんモデルマウスを用いたin vivoの研究により、IL-18がこれらのエフェクター細胞を増強することによって、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めることがわかった。またIL-18と併用することによって、Tregが抑制されること、pre-mNKと呼ばれるNK細胞の数が著しく増えること、がんの免疫治療においてはTリンパ球によるacquired immunity が中心的な役割を持つと考えられてきたが、innate immunityも重要な役割を持つことなどの新しい知見が得られた。 この研究の結果はがんの免疫治療を改良するために示唆を与えるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
IL-18は抗腫瘍作用を示すことから医薬品会社などが医療応用を目的として開発を進めていたが、単体ではあまり効果がなく、開発は諦められていた。その理由の一つとして、IL-18 の生物学的な役割や作用機序が明らかでなく、医療への応用の裏付けが得られていないことも考えられる。inflammasomeの発見後、IL-18が細胞のエネルギー代謝、脂質代謝、ミトコンドリアの機能維持、蛋白のリサイクルの制御に関与し、細胞の生存、増殖、分化などにおいて重要な役割を持つことが明らかになってきた。本研究ではCD8陽性T, γδT, NK細胞などの増殖はIL-2, IL-15などの増殖因子のみならずIL-18の助けが必要なことが示されたが、IL-18 の作用機序の分子レベルでの解析は十分ではなく、この点を解明する計画である。 直近の課題は、IL-18 の医療への応用であり、免疫チェックポイント阻害薬との併用効果についての治療研究を進める必要がある。そのため、治験用のGMP IL-18を製造する必要があり、企業との協力が必要となることが予想される。様々な阻害薬の調達など費用の問題もある。IL-18 を用いた治療研究は以前に行われており、ヒトにおいてIL-18が生体に与える影響、化学療法剤とIL-18との併用の効果などについて多くの知見も得られている。しかし、今後は医師主導による治療研究となると思われ、治療研究組織の構築などが必要になってくる。IL-18と阻害薬との併用についての治療研究の実現には多くの課題があるが、他大学、医療機関、公的な事業開発支援機構などの協力を得て治療研究を推進する計画である。 このほか前臨床の研究としては、がん種や動物がんモデルを増やしたり、他の免疫治療薬との併用効果についても調べ、加えて阻害薬によると思われる有害事象に対するIL-18の効果についても検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス大腸がん細胞CT26、黒色腫細胞B16、 乳がん細胞4T1などを用いたがん腹膜播種モデル、肺転移モデルにおける免疫チェックポイント阻害薬とIL-18との併用効果については、年度内に実験を終了、当初の目的を達成して、論文発表した。しかしながら、IL-18の作用機序を分子レベルで解明するための実験がまだ若干残っており、免疫染色用、ウエスタンブロッティング解析用、FACS解析用の抗体、培養液、培養機器などの購入費のほか、論文発表にかかる費用などを残しておく必要があった。論文発表の準備もしており、次年度には使いきる予定である
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次年度使用額の使用計画 |
残りが35万円ほどの額であるが、種々の抗体などの試薬や消耗品、論文発表の費用に充当する計画である。
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