研究概要 |
本研究は、癌幹細胞(CSC)を標的とした新たな診断・治療法を確立することを目的としている。 当科で樹立したヒト膵癌細胞株(親株)を当科で開発した培養液を用い培養した。この方法で得られた細胞を、表面マーカーの発現、マウス腫瘍形成能、遺伝子発現について親株と比較した。Bio-Plexを用いて、親株とCSCの細胞内シグナル伝達の違い、培養液中のサイトカイン、ケモカインの違いを探索した。膵癌幹細胞とされるCD24+/CD44+/ESA+細胞の割合が親株で約0.6%であったが、当科特殊培養液により33.8%に増加した。免疫不全マウスで1,000個にて腫瘍形成能を確認した。間葉系マーカーであるVIM,FN1,SNAIL1,SLUG,ZEB1,SIP1遺伝子発現が癌よりも高く、上皮間葉転換(EMT)を起こしていることが示唆された。幹細胞のマーカーであるKIT,ALDHIA遺伝子発現も認め、幹細胞様性質を獲得していた。CSCの培養液にはG-CSF,IL-1beta,GM-CSF,IL-15,VEGF,IL-8,RANTES,IP-10,IL-7がより多く、親株の培養液にはIL-1ra,BasicFGF,IL-17,PDGF-BB,IL-2,IL-5が認められた。TGF-βは誘導されたCSCを維持している培養液中で高かった。細胞内シグナル伝達ではERK1/2、IGF-IR、NF-kB、p-53、STAT3のリン酸化(活性化)を測定し、親株とCSCで差があったものは、NF-kB,p-53,STAT3の3遺伝子でありいずれも親株において高い活性化が認められた。 これらの結果から、CSCの特性をさらに探究することでCSCの診断・治療のターゲットを探索する。
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今後の研究の推進方策 |
A.癌との共通抗原及び癌幹細胞特異的抗原の同定 膵癌幹細胞の誘導及び培養法を確立できたため、この技術を基に、膵癌幹細胞特異的新規遺伝子(恒富亮一)、蛋白的検索(藏満保宏)を行い、免疫学的主要癌抗原(immunodominant antigen)の検索を行う。われわれが得意としてきたマイクロアレイ(CancerRes,2002年:Oncogene,2003年:LANCET,2003年:LANCET,2004年:LANCET,2005年)と新規蛋白同定(Proteomics. 2005 : Proteomics. 2006)の技術と蓄積した知識を駆使することで、癌幹細胞特異的抗原の同定を行う(浜本義彦)。 B.同定した膵癌幹細胞特異的分子をターゲットにした免疫療法の開発 同定した膵癌幹細胞特異的分子(抗原)の中で、免疫学的に反応性が高いものを探す(吉村清、岡正朗)。in vitroで抗原提示細胞と一緒に培養し、T細胞が活性化され、高い殺細胞効果を有するものを検索することで、ペプチド療法として使用可能な癌抗原を選択する(吉村清、岡正朗)。ここでピックアップした免疫学的に反応のよい上位5種類程度のペプチドを用いて癌ペプチドワクチン療法を開発する。ペプチドとして同定したものが免疫学的反応に乏しいなど、この方向での研究が進まない場合は、癌幹細胞特異的な分子のFull lengthのmRNAを樹状細胞にエレクトロポレーション法で遺伝子導入することで樹状細胞療法の開発にシフトする。
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