研究実績の概要 |
本研究の目的は、癌間質を制御する事で難治性固形癌にも有効性が期待できる”抗YB-1 miRNA/デコイ発現遺伝子治療”を開発し、臨床研究に向けた基盤を整えることである。
平成24-25年度に抗YB-1 miRNA/デコイ発現プラスミドを作成し、膵癌腹膜播種モデルに高分子ミセルに内包して投与したところ、一定の抗腫瘍効果を認めたものの有意差に至らなかった。その為、平成25-26度miRNAの活性を増大するexportin-5 (Xpo-5)と argonaute 2 (Ago-2)を同時に発現する抗YB-1 miRNA/デコイ遺伝子プラスミドを作成して、同様に腹腔内投与して治療効果を検討した。しかし、腫瘍の増大は抑制されたが、有意に生存期間の延長は認めなかった。
その要因の検討であるが、血管新生阻害に関してはYB-1阻害miRNA/デコイ遺伝子導入により皮下腫瘍の微小血管密度の抑制が認められ、YB-1 siRNAによるin vitro血管内皮細胞導入実験でも増殖・管腔形成能の阻害効果が認められた。一方、皮下腫瘍のマクロファージ数の変化は認めなかった。別の実験系ではあるが、我々は高分子ミセルの腹腔内投与により腫瘍部の周辺部とリンパ系臓器に主に遺伝子送達・導入が認められることを報告している(Fukugaki K, et al: Plos One 2014; Cui L, et al: J Control Release 2015)。以上の結果より、YB-1 miRNA/デコイ発現遺伝子治療は癌微小環境:血管新生の制御はできるものの、遺伝子導入が腫瘍全体に及ばない為に有意な抗腫瘍効果に繋がらない可能性が示唆された。しかし、免疫染色で乏血管性の患者膵癌においても腫瘍血管にYB-1高発現を検出しており(論文投稿中)、今後、YB-1阻害核酸を用いた癌微小環境制御のアプローチを試みたい。
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