遠隔臓器に対する虚血プレコンディショニングが、脊髄虚血再灌流障害に対して保護効果があるかを確かめるために、マウスを用いたモデル実験を行った。腹部大動脈遮断による5分間虚血と5分間灌流を3サイクル行う虚血プレコンディショニングを実施した後に、脊髄虚血再灌流障害モデルとして下行大動脈を10分間の結紮を行い、3日後にBasso Mouse Scaleにより脊髄障害の程度を評価したところ、虚血プレコンディショニングを実施した群は、虚血プレコンディショニングを実施しなかったコントロール群に対して、下肢等の動きが良かった。 我々はこれまでに虚血プレコンディショニングが、CD34陽性である骨髄由来幹細胞の動員を促すことを報告してきたことから(J AmColl Cardiol. 2009;53:1814-22)、CD34陽性骨髄細胞がどのような保護因子を作っているのかを探索することにした。C57BL/6マウスの大腿骨から骨髄細胞を採取し、フローサイトメトリーにより解析すると、CD34陽性細胞は約12%であった。次に、抗CD34抗体を用いて骨髄細胞をCD34陽性とCD34陰性に分け、これまでに報告されている様々な虚血に対して保護因子と機能する遺伝子や抗炎症性サイトカインのmRNAの発現レベルをリアルタイムPCRで観察した。CD34陽性骨髄細胞においてDKK1、IL10、FGF9のmRNA発現レベルは、CD34陰性骨髄細胞の10倍以上であったことから、虚血プレコンディショニングにより動員された骨髄由来幹細胞が分泌する虚血保護因子や抗炎症性サイトカインが、脊髄虚血再灌流障害から脊髄保護に作用する可能性が示唆された。
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