研究課題
H24年度までに、大動脈壁に機械的ストレスおよび液性因子によるストレスを加える新たなモデルを開発した。このモデルを用いて、細胞外マトリックスタンパクであるテネイシンCのノックアウトマウス、およびマクロファージ内の情報伝達分子であるSOCS3のノックアウトマウスでは、大動脈解離の発症頻度が大幅に上昇することを発見した。さらに、テネイシンCノックアウトでは炎症応答の亢進と組織強度の低下が解離に先立って起こるのに対して、マクロファージSOCS3ノックアウトでは、マクロファージが炎症性フェノタイプに機能分化し、大動脈壁の微小な傷害が大きな大動脈解離に進展する頻度が大幅に増加することを明らかにした。H25年度には、これらのフェノタイプの背景にある分子イベントを明らかにすることに注力した。テネイシンCノックアウトマウスの大動脈壁で、解離に先立つ分子イベントを明らかにするために、炎症性サイトカインの情報伝達分子であるSTAT3とNFkBの活性、および細胞外マトリックス合成を司るサイトカインTGFβの情報伝達分子であるSMAD2の活性をイメージングサイトメーターで解析した。興味深いことに、STAT3とNFkBの活性はテネイシンCノックアウトの平滑筋細胞および炎症細胞で亢進している一方、SMAD2の活性は平滑筋細胞選択的に低下していた。さらに、平滑筋細胞の収縮タンパクである平滑筋αアクチンの発現も低下していた。このことから、炎症応答の亢進と平滑筋細胞分化の異常が解離の発症に先立つことが示された。一方、マクロファージ特異的SOCS3ノックアウトでは、大動脈壁の微小な傷害部位で細胞回転が亢進していることがトランスクリプトーム解析から示された。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者独自に開発した解離モデルの分子解析から、解離発症の鍵となる分子細胞生物学的なイベントとして、平滑筋の分化異常と炎症細胞および/または平滑筋細胞の増殖経路の活性化が起こるという予想外の発見が得られた。これらの知見は、ストレスが炎症を起こし、炎症による組織破壊が解離を起こすという従来の病態概念とは大きく異なる分子病態の存在を強く示唆するものである。解離の病態解明に向けた研究の新たな方向性を示す非常に重要な知見が得られた。
大動脈ストレス下で、血管平滑筋細胞の分化状態がどのように制御されているのか、ストレス応答性の分化制御転写因子に着目して解析を進める。さらに、血管傷害から解離への進展に際して顕著に起こる細胞回転応答がどのような細胞種でおこるかを明らかにし、その意義を解明する。
分子解析に際して、サンプルとなるマウス大動脈を病変重症度で層別化し、解析結果と関連づけた。この解析方針により、単なる刺激の有無やマウスジェノタイプで分類する場合と比較して群内のばらつきが減少し、群間の差がより明らかになった。その結果、比較的少ない観察数でも有意な結果を得ることができたため経費の節約が可能となった。平滑筋細胞とマクロファージそれぞれについて、増殖応答と細胞機能分化の関連を明らかにする。そのために、細胞増殖への薬物介入実験の実施と、トランスクリプトーム解析を含む分子応答の解析を行なう。
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Scientific Reports
巻: 4 ページ: 4051:1-10
10.1038/srep04051
Circulation
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