これまでに我々は核内転写因子FOXO3が活性化するとグリオーマ幹細胞に対して分化を誘導するとともにその腫瘍形成能を抑制することを明らかにしてきた。そこでFOXO3活性化薬を探索した結果、我々は糖尿病治療薬であるメトホルミンがグリオーマ幹細胞のFOXO3を活性化する作用があることを見出した。さらにメトホルミンを用いた一連の検討の結果からはメトホルミンがグリオーマ幹細胞治療薬として有望であることが示唆された。そこで実際の臨床応用を想定してメトホルミンとテモゾロミドの併用効果を脳腫瘍治療モデルを用いて検討したところ、それぞれの単独投与よりも併用投与で生存期間がさらに延長することが明らかになった。こういった前臨床試験結果に基づいてメトホルミンについては国立がん研究センター脳脊髄腫瘍科とともにグリオブラストーマを対象とした臨床試験の準備を進めており、臨床試験プロトコールがほぼ承認される段階に至っている。 一方、これまでメトホルミン以外でFOXO3活性化を介してがん幹細胞治療効果を発揮しうる薬剤の探索も並行して行っていたが、我々は今回新たにFOXO3活性化効果をもち、臨床的安全性も確認されているある種の薬剤がグリオーマ幹細胞のstemnessを抑制しうる可能性を見出した。また、メトホルミンと並ぶもう一つのグリオーマ幹細胞治療薬候補であるJNK阻害薬については、これまで用いて来た臨床的安全性が不明なJNK阻害薬SP600125に代わるものとして既に臨床的安全性が確認されているJNK阻害薬を探索してきた。その結果SP600125と同様にがん幹細胞治療効果を有する新たなJNK阻害薬を見出すことに成功した。
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