研究課題
吸入麻酔薬の作用機序の一つとして近年視床-大脳皮質間の神経ネットワークが注目されている。そのうち主な役割を担う視床皮質(TC)ニューロンに特異的な遺伝子発現プロファイルがあると予測される。そこでTCニューロンのトランスクリプトーム解析により、吸入麻酔薬の細胞内遺伝子発現レベルでの作用機序を解明する。計画している具体的な研究項目は 1.マウスTCニューロンのトランスクリプトーム解析、2.麻酔薬曝露により発現の変化するmRNAの探索とそれをノックダウンするmiRNAの作製、3.さまざまな臨床状況を想定したノックダウンマウスの疾患モデルの検討、4.エクソーム解析への進展と手術患者での検証、の4つである。平成25年度、申請者らはマウスの脳をNeuN染色した後に、Laser Microdissection (MMI cell cut plus、学内備品)を用いて特定ニューロンよりトータルRNAを抽出する実験系を確立した。さらに得られたトータルRNAはmRNAを抽出した後にcDNAに変換し、⊿⊿CT法によってmRNAの発現量を定量する実験系を確立した。また次世代半導体シーケンサ、Ion PGMシーケンサ(学内備品)により臨床検体を用いてDNAシーケンスを実施しており、一部の遺伝子は静脈麻酔薬の入眠濃度の個人差と関連する可能性を発見した。さらに動物実験を通じてtranscription-wide gene profilingを行う予定である。安定してIon PGMシーケンサの稼働が可能となれば、安価にtranscription-wide gene profilingが可能となり、本研究の実現性は高いと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
二年目の平成25年度、静脈麻酔薬の入眠濃度および吸入麻酔薬の入眠濃度と関連する可能性のあるレアバリアントをNGSによって同定した。ヒトにおけるSNPsは一個体あたり約5000万と想定されているので、0.01%以下のレアバリアントも健常人において数多く存在するものと考えられる。このレアバリアントがcoding regionに存在する場合、表現系に大きな影響を及ぼす可能性が示唆される。この表現系の差異をNGSおよびin silico analysisを用いて同定する実験系を確立した。また昨年度より引き続き疾患モデルマウスを用いて脳の神経核よりニューロンを単離し、mRNAの発現をRT-PCR(⊿⊿CT法)により定量する実験系を確立した。この二つの実験系を組み合わせることにより、当初の目的であったトランスクリプトーム解析および術後機能障害の機序を究明することが可能であると考えられる。
マウスTCニューロンのトランスクリプトーム解析C57/BL6マウスにデスフルランを4-7%で6時間投与し、脳スライスよりレーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)を用いてTCニューロンで構成される視床外側腹側核(VPL)、後内側腹側核(VPM)からニューロンを単離し、トータルRNAを抽出する。次世代半導体シークエンサ Ion Torrentを用いてwhole RNAシークエンスを行うことにより、吸入麻酔薬曝露前後でのVPL、VPMにおけるmRNAの発現量変化を全てのmRNAに対して行う。また近年問題となっている老年における術後認知機能障害の原因遺伝子を同定するため、術後老年モデルマウスを作製し、TCニューロンにおける術後認知機能障害の機序を究明する。
本年度の予算執行状況はほぼ前年度の申告通りであり、残額は10,094円と少額である。分子遺伝学試薬の購入に充当する。
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