研究課題/領域番号 |
24390372
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
林 祐太郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40238134)
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研究分担者 |
郡 健二郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30122047)
小島 祥敬 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60305539)
水野 健太郎 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70448710)
神沢 英幸 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (00551277)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 性分化 / ゲノムワイド解析 / 尿道下裂 |
研究概要 |
外性器の形成には、複数の遺伝子が関与しており、候補遺伝子のノックアウト動物を用いた機能解析が進められている。しかしながら、実際の外性器異常症例において、こうした遺伝子変異が認められるのは一部に過ぎず、大多数の症例では原因不明である。私たちは、外性器の先天異常における代表的疾患である尿道下裂の発生機序に焦点をあて、実際の症例から得た血液サンプルをもとにゲノムワイド解析を行い、外性器形成メカニズムを包括的に解明することを目的として本研究を計画・立案した。 当該年度では、尿道下裂を合併する性分化疾患に注目し、特に、染色体が46,XXにもかかわらず性腺としての精巣が発生し、外性器の男性化が見られる46,XX精巣性DSD(Disorders of sex development)症例の解析を行った。通常、Y染色体が存在するかどうかによって精巣か卵巣かいずれかが発生するかが決定される。精巣決定因子としてY染色体上のSRY遺伝子が知られているが、今年度の研究では、このSRY遺伝子を持たないにも関わらず精巣の発生が進行し、外性器が発生、さらに尿道下裂を呈した症例を集積し、そのゲノム解析を行った。外性器の発生は胎児精巣から分泌されるアンドロゲンの影響を大きく受けるため、まず精巣発生について解析を行っている。すなわち、正常の精巣組織(XY精巣)と本疾患の精巣(XX精巣)との間で発現差の異なる遺伝子をSubtraction法によって検討したところ、ROCK1遺伝子が関与していることを新たに見いだすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、平成25年度以降には、前年度までの症例集積とそれらから得られた血液や組織サンプルから得られたゲノムをもとにゲノムワイド解析を行い、外性器の発生に関与する候補遺伝子群を特定することを予定していた。さらに、これら候補遺伝子の発現量の確認を定量RT-PCR法で行うことや、タンパク質発現をWestern blottingや免疫染色法で確認することを計画していた。当該年度では、尿道下裂の症例のうちでも、46,XX精巣性DSD症例に限られるが、正常と比較することにより、ROCK1遺伝子を同定することができた。このROCK1遺伝子は精巣組織で発現するが、定量RT-PCR法を用いて正常組織と比較したところ、46,XX精巣性DSD症例の精巣組織では有意に発現亢進することを確認した。また、精巣組織を用いた免疫染色を行い、特異抗体を用いてROCK1タンパクがセルトリ細胞内に局在することを確認している。さらに当該年度では、培養細胞を用いて、ROCK1の特異的阻害物質であるY-27632の添加実験を行った。その結果、ROCK1がSOX9を活性化することを新たに見いだした。このことから、SRY遺伝子によって活性化されると考えられていたSOX9遺伝子が、SRY非存在下でもROCK1遺伝子によって活性化され精巣発生が進行することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた結果から、ROCK1遺伝子のさらなる機能解析を進めたい。ROCK1遺伝子は細胞接着に重要な役割を果たす、細胞のアクチン骨格の制御を行うRhoシグナル伝達系の重要なリン酸化酵素の一つである。性腺の細胞において、こうしたシグナル伝達系がどのように制御されているのかを包括的に明らかにすることを進めていきたいと考えている。 また、引き続き尿道下裂や、その他外性器疾患の症例集積は継続的に行う。研究体制に基づき、情報開示・学会発表を適宜行いつつ、学内倫理審査委員会からの提言・指導のもとに臨床情報の管理、サンプルの保管を行っていく予定である。これらの症例をもとに、CGHアレイ解析も行いつつ外性器の発生異常にかかわるゲノム構造変化を明らかにする予定である。 ゲノム情報の解析には、膨大なデータの取り扱いが必要であるため、必要であれば、高い演算能力を有する計算機やソフトウェアを使用して効率的に研究を進めるとともに、分担研究者とも綿密な打ち合わせを行い、研究計画を遂行したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度までに尿道下裂の症例を集積し、CGHアレイ解析などのゲノムワイド解析を行い、外性器の発生に関わる遺伝子群を明らかにしようと計画していたが、研究の概要にも記載したように、尿道下裂のうちでも46,XX精巣性DSD症例にしぼって解析を行っている。そのため、解析に必要な試薬類、また尿道下裂モデル動物の数などが当初の予定よりも下回り、次年度への繰り越しが発生することとなった。 前述したように、平成26年度以降も症例の集積を続けるとともに、CGHアレイなどのゲノムワイド解析を予定している。これには外部への作業委託を予定しているため、その委託費としての経費や、得られた結果の確認のために行う定量RT-PCR法やWestern blotting・免疫染色などに使用する試薬購入費として使用する予定である。
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