研究実績の概要 |
胎児へのウイルス感染は流早産や奇形,永続的な神経障害の原因となる。大部分のウイルス感染症において、胎盤は関門として一定の役割を果たすがサイトメガロウイルス(CMV)や風疹ウイルス(RV)の場合には十分に機能しない。しかし,子宮内感染の機序は未だに不明な点が多い。その理由として胎盤には様々な分化段階の細胞が存在しウイルス感受性が異なるため十分な解析ができないこと、動物モデルではヒトの病態を十分に再現できないことがある。本研究では,ヒト胎盤,羊膜幹細胞,不死化初期絨毛細を用いて in vitro で分化誘導を行い、ウイルス感受性の変化を検討した。その結果 風疹ウイルスは母子感染を来した臨床分離株、ワクチン株いずれも各分化段階の絨毛細胞や羊膜細胞に感染を来さず、絨毛血管細胞にのみ強い感受性を認めた。風疹ウイルスが胎盤関門を潜り抜けるメカニズムとして、細胞間隙のないsyncytial layerではなく、 trophoblastic column を構成するcytotrophoblasts が上皮間葉移行を来すことを明らかにした。Cytotrophoblasts の上皮間葉移行にはTLR を介したシグナルが重要であることが明らかとなった。一方、HIVについては、プロテオーム解析により、ウイルスタンパクVpxに結合するタンパクがその複製を強く抑制し、局所におけるバリア因子となっていることを明らかにした。Cytotrophoblastはこれを強発現するが、siRNA による発現抑制によってウイルス感受性が復活する。また、TLR2,4を介したシグナルによってもウイルス感受性が増大することから、胎盤局所におけるマイクロビオームが子宮内ウイルス感染を調節する可能性が示唆された。
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